計画研究
ヒストンの翻訳後修飾とクロマチン構造の役割を解明することによって、生体内での転写サイクルと生命現象との接点を明らかにする。平成26年度はヒストンH2Aのリン酸化により転写調節される遺伝子をRNA-seqにより明らかにした。Up-regulateされる遺伝子の中で癌遺伝子に分類されるサイクリンD1に関して着目しプロモーター領域の解析を行った。サイクリンD1はヒストンH2Aリン酸化酵素VRK1により活性化され癌細胞増殖に関与していることを明らかにした。癌細胞を用いてVRK1をノックダウンすることによりサイクリンD1プロモーター領域のヒストンH2Aリン酸化は低下し、細胞増殖も抑えられることが明らかになった。siVRK1によるノックダウンに抵抗性の変異VRK1を作成し導入するとVRK1をノックダウンしたのちもH2Aのリン酸化は維持され細胞増殖も低下しないことを明らかにした。また培養細胞にヒストンH2AのC末端リン酸化を模倣する変異T120DをNIH3T3に導入すると癌化トランスフォームし、この癌化細胞をヌードマウスに移植すると腫瘍を形成した。変異T120DによりトランスフォームしたNIH3T3の4株について調べると全例においてサイクリンD1の発現が上昇し、そのプロモーター領域に於いてヒストンH2Aリン酸化が上昇していた。これらの実験によりヒストンの翻訳後修飾自体が癌化を引き起こすのを明らかにした。これらの結果は癌化の機構を明らかにするとともに、新規の抗がん剤の標的も明らかにしたことになる。癌ゲノムのデータベースからVRK1自体の変異があることも見出し、現在これらのVRK1変異が癌化に関与しているかいなかを明らかにしていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
ヒストンの翻訳後修飾とクロマチン構造の役割を解明する過程で、癌化と現象の原因を明らかにすることができた。さらにヒストンH2AのC末端リン酸化がヒストンH2AのC末端ユビキチン化と拮抗し遺伝子転写を調節することも明らかにした。これらの結果はヒストンH2AのC末端のリン酸化やユビキチン化を触媒する酵素が抗がん剤の標的となることを示唆している。さらにこれらの研究を推進ことにより、詳細に生体内での転写サイクルと生命現象との関わりを明らかにしていけると考える。
今回申請者ら培養細胞を用いてヒストンの翻訳後修飾とクロマチン構造の役割を解明する過程で、癌化と関係を明らかにしてきた。今後この研究結果を動物実験と試験管内の実験により確認していく予定である。従来、試験管内遺伝子転写の生化学的解析はプラミドDNAを用いた再構築により行われてきた。我々は従来の手技を発展させ、全ゲノムを用いてクロマチンを再構築し転写サイクルによる遺伝子転写開始機構を明らかにしたいと考えている。申請者らが明らかにしてきたクロマチン形成因子NAP1とACFを用い、ヒトゲノムDNA及びヒストンタンパクにより全ゲノムクロマチンを作成できることを確かめている。この系によりより詳細なゲノム全体での遺伝子転写を明らかにできると考えている。これらの全ゲノムクロマチンの再構築により明らかにした現象は細胞レベルの実験により検証する予定である。さらに動物実験として、癌ゲノムのデータベースから明らかにした変異VRK1を作成し、NIH3T3に導入しヌードマウスに摂取し、造腫瘍性の有無を確認し、癌化への関与を調べる。同時に癌ゲノムのデータベースから明らかにしたヒストンの変異を導入したH2Aを作成し、同様にNIH3T3に導入しヌードマウスに摂取し、造腫瘍性の有無を確認し、癌化への関与を調べる。新学術領域の残り2年間により新規の研究領域を展開していきたい。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (5件) 備考 (2件)
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