研究実績の概要 |
タイヘイヨウサケ属には、多回繁殖型と一回繁殖型の魚種が存在する。前者の繁殖様式をとるニジマスでは、排精後の精巣においても、精子形成のもととなるA型精原細胞(ASG)を保持しているのに対して、後者の繁殖様式をとるヒメマスの排精後精巣ではASGが消失していることが明らかになっている。さらに、前年度までの研究でヒメマスに移植されたニジマスASGは、排精後も宿主ヒメマスの精巣において保持されることを明らかにしている。このことから、繁殖様式依存的にASGの動態の制御は生殖細胞自律的な機構がその一端を担っていることが明らかになっている。そこで、本研究では、繁殖様式依存的にASGの動態を制御する因子を単離することを目的に、排精期直前のニジマスとヒメマスASGにおける遺伝子発現を網羅的に解析した。 排精期直前(35ヶ月齢)のニジマスとヒメマスの精巣から、セルソーターを用いてASGを単離し、遺伝子発現を網羅的に解析した。得られたデータを主成分分析(PCA解析)に供することにより、ニジマスASGとヒメマスASGを特徴づける遺伝子を探索した。さらに、得られた遺伝子群についてKEGGデータベースの情報を用いてpathway解析を行った。PCA解析において、ヒメマスASGとニジマスASGの違いはPC1において検出された。そこで、PC1に高い相関を示す転写産物(相関係数 >0.7)を探索したところ、ニジマスASGを特徴づけるものを4,685個、ヒメマスASGを特徴づけるものを982個同定した。そこで、これらの転写産物をコードする遺伝子群について、pathway解析を行ったところ、細胞の生存や増殖に関わる複数のシグナル経路がニジマスASGで亢進していることが明らかになった。今後、ニジマスにおいてこれらのシグナル経路を阻害することでASGの動態にどのような影響がみられるか解析することで、繁殖様式依存的なASGの動態制御機構の解明が期待される。
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