研究領域 | ナノスピン変換科学 |
研究課題/領域番号 |
26103002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大谷 義近 東京大学, 物性研究所, 教授 (60245610)
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研究分担者 |
新見 康洋 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (00574617)
Jansen Ronald 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノスピントロニクス研究センター, 研究員 (40600250)
松倉 文礼 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 教授 (50261574)
木村 崇 九州大学, 理学研究院, 教授 (80360535)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 磁気的スピン変換 / スピン流 / スピンホール効果 / スピン運動量ロッキング / 電界誘起磁化反転 |
研究実績の概要 |
非線形的なスピン-電荷流の変換機能を開拓と、電界による磁気的変換に着目している。 高品位界面の研究については、FIB微細加工技術を用いて、固体表面あるいは異種物質界面の効果を顕在化させる素子作製とスピン流電流相互変換の電気的測定を引き続き継続して遂行した。角度分解レーザー光電子分光法を用いて、金属/Bi酸化物界面の電子構造を調べたところ、酸化物と金属界面にスピン分裂バンドの存在の可能性を示唆するバンド分散を観測した。また、スピン変換の機構としてトポロジカル絶縁体の表面で生じるスピン運動量ロッキングに着目してスピン流電流変換を試み、50%を超えるスピン変換を実現した。 27年度に引き続き、28年度も複雑な磁気構造をもつ典型例であるスピングラス(銅マンガン)中のスピンホール効果を測定したところ、マンガンの濃度を10%まで大きくすると、スピンホール効果が完全に低温で消失する振舞いが観測された。また原子層超伝導体NbSe2を用いた非線形スピン流-電流変換の研究も開始し、超伝導転移温度以上で、スピンホール効果の観測に成功した。 Nb/Cu/NiFeの複合構造において、近接効果により超伝導状態となったCu中 では、クーパー対とスピン流の共存状態が形成できること、Cu/NiFe 二層膜のスピン吸収効果に異方性が生じ、温度の低下と共にスピン吸収効果が増大し、スピン信号が減少することを見出した。微細なCoFeB/MgO磁気トンネル接合の素子抵抗を上げることで、電界誘起磁化反転の世界最小反転エネルギ6.3 fJ/bitを達成した。接合中の磁化ダイナミクスは熱擾乱の影響を受け易いことを明らかにし、その温度依存性を説明した。 その他、昨年度構築した半導体面内スピンバルブ構造において観測される非線形な非局所スピンバルブ信号を説明する理論引き続き継続し、接合構造の効果も取り入れることが出来るように改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実績概要でも述べた金属/Bi酸化物ラシュバ界面を用いたスピンゼーベック効果の班間共同研究が実を結び、論文発表を行った。また、トポロジカル絶縁体の表面電子状態にも着目し、その表面に特徴的に現れるスピン運動量ロッキング現象を利用した高効率スピン流電流変換の詳細を実験的に明らかにし、論文発表した。この成果は世界的に注目され、多くの招待講演につながった。 また、スピングラス中のスピンホール効果に関しては、理論でスピンホール効果の信号が消失することは予測されていたが、マンガン濃度を10%程度まで上げることで初めて観測した。現在、論文を執筆中である。H28年度から開始した原子層超伝導体における非線形スピン流-電流変換に関しては、素子作製の最適化に時間を要したが、年度末に超伝導転移温度以上でのスピンホール効果の観測まで達成しており、研究計画通り遂行している。 新奇なスピン変換現象については、共存するクーパー対とスピン流の相互作用の検出を試みている。スピン拡散長は、クーパー対の有無により、殆ど変化しないことを確認した。微細CoFeB/MgO磁気トンネル接合において、電界印加によって誘起される磁化ダイナミクスの実時間測定については、熱擾乱により、磁化歳差運動の位相緩和が促進されることが明らかになってきている。 その他、スピン変換現象において重要な役割を果たすFe/MgOトンネル接合を介して半導体中に蓄積したスピンと強磁性体の交換相互作用に関する研究も行なっている。n型Siのスピンチャネル上に上述の接合を形成すると交換結合を反映したハンル信号のシフトが観測されつつある。 以上のように多くの成果が着々と出ており、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、計画通りトポロジカルな性質を有する班強磁性体も研究対象に含めてスピン流電流変換あるいは電流誘起磁壁移動の研究を遂行する。既に非共面トポロジカル班強磁性体を用いた実験を開始しており、新奇なスピンホール効果の観測に成功している。この研究をさらに推し進め新しいスピン変換現象の開拓に結び付ける。 また、原子層超伝導体NbSe2を用いた非線形スピン流-電流変換に関しては、29年度に超伝導転移温度以下での実験、また電界効果による超伝導転移温度の上昇を目指す。さらに29年度からは新たな非線形スピン変換の舞台として、ビスマス系高温超伝導体BiSrCaCuOや電界効果で大きな超伝導転移温度の上昇が報告されているFeSeを用いた研究も開始する予定で、更なるスピン流-電流変換効率の増幅を目指す。 Nb/Cu 複合構造において、多端子スピン注入源を用いて、効果的なクーパー対形成を目指すと共に、スピンを介してシングレット・クーパー対からトリプレット・クーパー対への変換を目指す。また、Fe3Si への効果的な純スピン流の注入を行い、純スピン流磁化反転や自励発振の観測などのスピン変換機能の実現を目指す。 電界により誘起される磁化ダイナミクスの詳細な測定・解析から、電界誘起磁化反転のエラーレートを低減する手法を明らかにする。また、電界印加による磁気異方性変調・磁気スティッフネス変調によりスピン波共鳴を制御する。 半導体中の蓄積スピンと強磁性体との交換相互作用の実験については、引き続き交換結合の強度を決定する物理因子を決定することを目標にしてハンル効果の実験を遂行する。
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