研究領域 | ナノスピン変換科学 |
研究課題/領域番号 |
26103004
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大岩 顕 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (10321902)
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研究分担者 |
大野 裕三 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 教授 (00282012)
水上 成美 東北大学, 学内共同利用施設等, 教授 (00339269)
塚本 新 日本大学, 理工学部, 准教授 (30318365)
安藤 和也 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (30579610)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 単一光子-単一電子スピン量子状態変換 / コヒレントマグノン / 超短時間スピンダイナミクス / 非線形スピンダイナミクス / スピンレーザー |
研究実績の概要 |
大岩は単一光子-単一電子スピン間の角運動量転写を実現した。続いて高効率量子状態転写にむけ励起効率が高い重い正孔励起による量子状態転写をInAs自己形成ドットで実現するために、単一光生成電子検出に不可欠な電荷検出素子を作製した。また光子DBR反射鏡を持つ量子井戸基板を設計・作製し吸収効率の増大を実証した。 水上は金属磁性体におけるコヒレントマグノンの光励起を実現するため、金属ナノヘテロ接合における円偏光レーザー励起スピンダイナミクスを調べた、また、微小領域におけるコヒレントマグノンの時空間分解計測装置の構築を進め、マグノン伝播の一次元的な観測に成功した。 塚本は超短時間光作用によるサブピコ秒領域での固体内スピンダイナミクスおよびエネルギー散逸特性の実験的解明を目的とする。高品位短パルス化Ti:サファイアレーザーシステムを導入、既存光学増幅器との連携により超高時間分解スピンダイナミクス計測システムを形成し、非断熱的磁気緩和過程の計測、多層構造膜の層分離計測を実現した。 安藤は金属/絶縁体界面における逆スピンホール効果を用いることでマグノンと伝導電子スピン流の角運動量変換を精密に調べた。この結果マグノンダンピングが界面スピン変換現象を支配していることを見出し、さらに本現象が低温で顕著に発現することを明らかにした。 大野はA02班 産総研・斎藤グループと共同で、GaAs/AlGaAs(001)量子井戸構造のキャリア寿命とスピン緩和時間の結晶成長条件依存性を調べた結果、発光再 結合寿命が成長条件に強く依存するのに対し、スピン緩和時間は成長条件によらないことから、発光偏光度が最適となる成長条件を明らかにした。 以上のように、強磁性薄膜系における非線形光学的スピン変換や、マグノン界面スピン変換、量子ドットにおける量子状態転写を達成する基板実験系の構築を完了し、予備実験等で先駆けた成果を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大岩は単一光生成スピン検出の検出精度の制限要因がスピン軌道相互作用による電子スピン緩和であることを明らかにし、正確なスピン検出が要求される今後の量子状態転写実験を遂行する上で重要な知見を得た。水上が行った超短パルスレーザー走査型の顕微鏡を用いたコヒレントマグノンの励起と検出はこれまで例はなく、本計画の基盤となるものである。現在、1ミクロン未満の空間分解能かつサブピコ秒の時間分解能でマグノン伝播の一次元的な観測に成功しており、順調に進展しているといえる。塚本はパルス長可変超短パルス光源を導入し既存光学的増幅器との連携システムを形成、加えて出射光の長時間安定性の向上も達成した。従来困難な多層構造膜内における層毎のスピンダイナミクス計測の新手法を考案・検証実験実施を達成した。波長可変測定系構築につき予定波長域への変換を確認した。安藤は非磁性/磁性界面におけるスピン変換効率が非線形スピンダイナミクスにより強く影響を受けることを明らかにしたことで、これまで蓄積されてきた広範囲の環境における実験データを統一的に理解することが可能となった。 以上のように各グループが概ね計画通りに成果を挙げている。
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今後の研究の推進方策 |
大岩は重い正孔状態からの量子状態転写に注力し、InAsやGe系ドットさらに(110)基板上のGaAs量子井戸を導入して研究を進める。さらに強磁性体電極を有するスピン波との結合の研究にも着手する。水上は光学装置の構築を進め、コヒレントマグノンの時空間分解イメジングを達成する。平行して、スピン軌道相互作用の強く働く金属磁性体単結晶薄膜、ならびに磁性ナノへテロ接合の作製と評価を進めることで、光-マグノン相互作用に関する知見を得る。塚本は本年度検討によるエネルギー散逸過程および磁化動特性の層分離計測手法とともに、角運動量および非断熱的エネルギー散逸特性を実効的に変ずる意図として磁性/非磁性体、金属、絶縁体からなる多層構造化薄膜試料を用い、超高速減磁応答、全光型磁化反転現象を中心に検討を行う。安藤はパラメトリック励起と逆スピンホール効果を組み合わせることで、金属/絶縁体界面における広範囲の波数領域の界面スピン変換マグノンモード依存性を明らかにする。さらに時間分解測定を併用し、マグノンモード・マグノン緩和時間とスピン変換効率の相関データを得る。 以上のように、本年度構築した測定系や作製技術を駆使しして、多角的に各グループでコヒーレント光スピン変換と超高速非線形光スピン変換、界面スピン変換の解明のための 研究を行うとともに班内連携の推進も図る。
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備考 |
新学術領域「ナノスピン変換科学」ホームページ http://www.spinconversion.jp/
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