研究領域 | ナノスピン変換科学 |
研究課題/領域番号 |
26103004
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大岩 顕 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (10321902)
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研究分担者 |
水上 成美 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 教授 (00339269)
塚本 新 日本大学, 理工学部, 教授 (30318365)
安藤 和也 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (30579610)
佐藤 琢哉 九州大学, 理学研究院, 准教授 (40451885)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 光学的スピン変換 / 円偏光 / 界面スピン変換 / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
水上は、金属磁性体における光励起コヒレントマグノン伝播を調べ、理論モデルと定量的に比較した。また、時間分解イメージングを行い、異方的マグノン伝播の知見を得ると同時に、計測上の課題を顕在化させた。他方、スピン軌道相互作用の強く働く磁性体等の光励起スピンダイナミクスを調べ、超高速減磁過程やマグノン励起の機構に関する知見を得た。 塚本は、異なる電子緩和特性を有する膜構造に対する検討から、金属薄膜表面近傍での電子系における光エネルギー吸収後サブピコ時間領域にて一時的に形成される非断熱的電子系熱緩和状態が、吸収エネルギーに対し非線形な閾値応答を示す全光型磁化反転現象の発動条件に重要な働きを担う事を実験的に明らかにした。また、近接場アンテナ構造を利用し光の回折限界を遥かに超える微小領域において本現象の発現が可能である事を示した。 佐藤は、繰越により、世界最高水準の測定精度を持つ光誘起スピン波の時間分解イメージング測定システムを構築し、スピン波のトンネル現象を、位相を含めて時間分解イメージングすることに成功した。また、マイクロマグネティックシミュレーションの数値計算システムを構築し、実験結果の再現のみならず、非線形スピン波伝播についての知見も得られた。 安藤は、磁性絶縁体から金属へと流れ出すスピン流の時間領域測定を実現し、パラメトリックマグノンによる非自明なスピン流振動現象を見出した。本現象がマグノンモードに強く依存することを明らかにし、これにより強磁性共鳴領域まで含めたマイクロ波領域のマグノンによる界面スピン変換現象のエネルギー・時間依存性が明らかになった。 大岩は、単一光子から単一電子スピンへの角運動量変換の実験をほぼ確立し、(110)GaAs量子井戸を使った高効率量子状態変換に着手した。さらに光生成単一電子スピン検出精度を決める2重ドットのパウリスピン閉塞の制限要因を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水上は計画通り顕微の手法を用いてコヒレントマグノンの励起と検出を行い、理論的な理解も進んでいる。また、計画したイメージングにも予備的な段階ではあるが成功し、独自の知見を得るところまで達成している。測定上の課題が若干あるものの、H28年度には解決できるため、当初の計画通り研究を進めることができる。 塚本は、これまでの研究により、光照射に続く極短時間領域におけるエネルギー散逸機構において、非局所的エネルギー散逸特性の寄与も明らかとなった。さらに、海外協力研究者との共同研究により、①磁気系の超高速ダイナミクス計測に関する、スピンおよび軌道磁気モーメントの分離計測可能性を示唆するTHz光発生、②近接場アンテナ構造による微小領域での全光型磁化反転現象発現および空間的ナノスケール不均一磁気構造との相関、等が明らかとなり、予想以上の成果が得られている。 佐藤は光誘起スピン波の時間分解イメージング測定システムを計画通りに構築し、測定を開始した。またマイクロマグネティックシミュレーションの数値計算システムを構築し、予想を上回る結果を得ることができた。 安藤はこれまでの研究により、金属/磁性絶縁体界面におけるスピン流生成現象が非線形マグノン相互作用に支配されており、さらに時間領域測定によってマイクロ波-マグノン結合の時間振動が見出された。これにより、マグノン励起を介したマイクロ波-スピン流変換の全体像が見え始めており、予想以上の成果が得られている。 大岩は、角運動量変換の実験をほぼ完結することできた。さらに光生成単一電子スピン検出の精度を決める2重ドットのパウリスピン閉塞の制限要因を明らかにし、今後の研究に不可欠な高精度単一電子スピン検出の指針を得たことは重要な進展である。大阪大学の大岩Gに光学窓付希釈冷凍機も当初計画通りに導入しており、量子状態変換の実験も順調に準備が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
水上は、時間分解イメージングの手法を追求し、マグノン励起とその伝播の非相反性について知見を得る。また他班と試料作製について連携することで、本研究を加速する。具体的には、ジャロジンスキ守谷相互作用を備えたヘテロ接合や半導体(絶縁体)/金属ナノヘテロ構造を他班と共同で作製・評価を進め、光マグノン変換の高効率化を目指す。 塚本は、主として超短パルス光照射に続くサブピコ秒領域における固体内エネルギーおよび角運動量散逸特性検出の定量・精密化とともに、非局所散逸特性検討の深化により、電子系による吸収光エネルギー量に対し強い非線形応答特性を示す光誘起磁化反転現象の機構検討を進める。上記検討を、異なる磁気構造を持つ磁性材料および偏光依存現象計測との相補的検討を行い、超短時間光スピン作用過程の時間的構造を明らかにする。 佐藤は、フェリ磁性絶縁体中のマグノンの生成・制御・時間分解イメージングの研究を行う。特に室温におけるTHzマグノンの生成や、スピン波のトンネル効果に関する実験的研究や、非線形スピン波伝播に関する数値計算的研究と実験的検証を行う予定である。 安藤はこれまでの研究により、金属/磁性絶縁体接合における非線形スピン変換を定性的に説明する模型は構築されたが、一方で本現象を定量的に完全には理解できていない。一つの可能性として空間不均一性があり、これを調べることで、金属/磁性絶縁体界面におけるマイクロ波-スピン流変換の物理の全体像を明らかにする。 大岩Gは、(110)GaAs量子井戸を使った高効率量子状態変換を実現して、そのうえで電子スピン量子状態トモグラフィーを達成して単一光子から単一電子スピンへの量子状態変換の実証を目指す。またマグノンと電子スピンの結合を目指した強磁性体/量子ドット複合系の実現も目指す。
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