計画研究
液体Hgは室温で水と同程度の粘性を示す液体金属であり、スピンホール物質であるPtと合金化しないため、流路中においてもスピンホール効果によってスピン流が注入できる。このときHgには、スピントルクと粘性により電流と平行方向に力が加わる。このようなトルクは電子スピン角運動量を運動へ直接変換するので、ナノ集積化可能であり、新しい動力エネルギー変換手法を与える。今年度は、巨視的流路にHgを流してスピン起電力を生成する系を作製し、信号の測定に成功した(論文作成中)。さらにこれを応用し、金属微粒子への光照射で誘起される「表面プラズモン」と呼ばれる電子の集団運動を磁性体の中で励起することで、光のエネルギーをスピン流に変換することに世界で初めて成功した。また、これまでに確立したスピン流-電流変換技術も利用することにより、光のエネルギーから電流を生成する新たなエネルギー変換原理が創出された。今回実証した光-スピン流生成も、これまでのスピンポンプ系と同様の材料で発現することが分かった。このことから、電流やスピン流の駆動力として同時に利用可能なエネルギー源の選択肢をさらに広げられることが明らかになった。今後の研究の進展により、表面プラズモンとスピン流を融合した新しい研究分野の形成や、外部電源を必要としない電気、磁気デバイスの研究開発に貢献することが期待される。以上の結果を論文にまとめ、Nature Communications誌に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
初期の目標は十分に達成されたのみならず、次年度以降予定していた光スピンポンプの測定も開始することができ、研究をやや前倒しで行っている状況である。
本年度以降、マイクロ流路を用いた角運動量変換の定量化・解析、スピンモーターデバイスプロトタイプ作製まで行う。一方で、相反性によりこの現象の逆効果、即ち逆スピンホール効果を経由して流体運動からスピン流と電流が生成される効果も予言される。流体金属の力学的駆動或いは界面フォノン(機械振動)の励起によりスピン流が生成され、逆スピンホール電圧が生じる現象が存在する筈である。これは動力から直接電子的に電力を生成する新しい発電原理であり、上記素子を利用してこれを開拓する。この現象を理論的に解析するためには、一般座標変換について共変な形に固体中電子の量子力学を書き換える必要があるが、既に理論グループと準備を始めている。電子が本質的に持っている量子力学的なスピン角運動量を取り出して利用することは、スピン科学の長年の夢であった。我々のスピントロニクス技術により、新しい動力原理・発電原理を提示する。本年度はスピン角運動量変換を利用した熱エネルギー技術体系の構築を行う。マイクロ機械技術を利用することにより、スピン流による冷却、加熱、熱移動現象の開拓を行う。本研究班メンバーらが発見した熱エネルギーからスピン圧や電圧が生成される現象「スピンゼーベック効果」は、スピンが本質的に持つ非相反性とマグノンのダイナミクスが絡みあった熱的スピン角運動量変換現象であるが、実はこの機構は更に高い一般性を有しており、スピンゼーベック効果の存在は、その逆効果であるスピン流による熱生成効果「スピンペルチェ効果」が存在すべきであることを意味する。マイクロ機械技術(MEMS)により、熱容量が小さく、大きさがスピン緩和長程度の微小な構造を作製しスピン流回路と熱生成・測定部を組み込むことでこの現象を開拓し、スピン流による熱操作の基礎学理を作る。
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すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 13件、 謝辞記載あり 12件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 9件) 備考 (1件)
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