研究領域 | ナノスピン変換科学 |
研究課題/領域番号 |
26103005
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
齊藤 英治 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 教授 (80338251)
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研究分担者 |
高梨 弘毅 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (00187981)
小野 正雄 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (50370375)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | スピン流 / スピントロニクス / 磁性物理 / スピンメカニクス |
研究実績の概要 |
研究計画中の「スピン角運動量変換を利用した熱エネルギー技術体系の構築」において特に多くの成果が得られた。 本研究はスピン・熱・電気相互変換に関する新しい学理構築を目指す。具体的には熱・スピン変換であるスピンゼーベック効果(①、②)、スピン・熱変換であるスピンペルチェ効果(③)、スピン・電気変換であるスピンホール効果(④、⑤)、そしてマイクロ機械技術を用いたスピン流による熱操作(⑥)に関して、以下の成果が得られた。 ①一次元量子スピン液体における準粒子スピノンがスピン流のキャリアとして機能することを、熱励起により生成されたスピン流の検出により初めて実証した。Nature Physics誌に掲載された。②磁性絶縁体中のマグノンとフォノンの混成効果を介して、マグノン流に比べて長寿命なフォノン流をスピンゼーベック効果に利用可能であることを示した。Physical Review Letters誌に掲載された。③スピンペルチェ効果は、スピン流による熱流の生成現象である。動的サーモグラフィ法による超高感度熱イメージングを用いて、スピンペルチェ効果の実空間イメージングを実現し、スピン流に由来した特異な熱分布を明らかにした。Nature Communications誌に掲載された。④反強磁性体中のスピン伝導度を観測することで、反強磁性体薄膜の磁気特性が簡便に評価できることを見出した。Nature Communications誌に掲載された。⑤非磁性体の熱流による磁性体化を初めて実現し、非平衡異常ホール効果を発見した。Nature Communications誌に掲載された。⑥マイクロ機械技術を用いて磁性絶縁体YIGのカンチレバーを作成し、その機械振動モードが外部磁場で制御できることを見出した。Aplied Physics Letters誌に受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本プロジェクトの目標である「スピンペルチェ効果の観測」および、「マイクロ機械技術を用いた磁性体微小構造の作製とその磁場制御」を予定より早く実現した。また、一次元量子スピン液体におけるスピノンスピン流の実証、スピンゼーベック効果におけるマグノンフォノンの混成効果、反強磁性体でのスピンホール効果測定、そして非磁性体の熱流による磁性体化など当初想定していなかった成果も得られており、本年度の計画以上の成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に、磁性絶縁体カンチレバーの機械振動モードの磁場制御を実現した。 これは研究計画における「マイクロ機械技術(MEMS)により、熱容量が小さく、大きさがスピン緩和長程度の微小な構造を作製し、スピン流回路と熱生成・測定部を組み込むことでこの現象を開拓し、スピン流による熱操作の基礎学理を作る」ための第一歩である。本年度は、マイクロ機械技術を用いて平面構造の立体的な積層構造を作製し、簡単な構造における実証実験から始めて、初期の段階でプライオリティと基礎技術を確立してから、段階的に構造を進化させる。研究プロセスを素子構造について多段化することで研究進展の管理を容易にし、更に全てのステップにおいて複数の構造・プロセスを並列させリスクの分散を図りプロジェクト全体を安定化させる。加えて、平成28年度に得られた成果を発展させて、以下の研究を行う予定である。 スピノンスピン流に関しては、Ptの正・逆スピンホール効果を用いた、スピノン・スピン流の電気的生成および検出に取り組む。Pt端子間距離の関数として輸送スケールを特定できるのみならず、スピノン版Hanle効果といった新規現象の観測も期待できる。 スピンゼーベック効果に関しては、磁性絶縁体の元素置換に伴う、マグノン-フォノンの分散関係の変化が本現象に与える影響を系統的に調べる。加えて、マグノン-フォノン結合定数と本現象の相関を明らかにする。 スピンペルチェ効果の原理解明には、熱スピン変換現象の長さスケールを理解することが重要である。我々が確立した空間イメージング技術を用いてこの長さスケールを明らかにし、熱スピン変換現象の原理を解明する。 非平衡異常ホール効果を使うことで、非平衡状態での磁化特性を超高感度に電気検出できることが明らかになった。さまざまな試料での測定を行い、非平衡状態での磁化特性評価手法として確立する。
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