研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
26107003
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井村 考平 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80342632)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | メソ構造 / 高次機能制御 / 近接場相互作用 / プラズモン / フォトクロミズム |
研究実績の概要 |
本研究では,メソ構造体に誘起される局在電場の近接場相互作用により一分子一光子応答を超える新規光応答制御スキームを構築し光化学反応,また分子の高次機能制御を実現することを目標とする。本年度は,プラズモンと色素分子の混在系におけるプラズモニックフォトクロミズムの究明を中心に研究を進めた。対象とした試料は,主に金ナノプレートと色素分子および金ナノ粒子集合体とフォトクロミック分子との連結体である。 金ナノプレートの試料では.プラズモンと色素分子の励起状態の相互作用がプラズモンおよび色素にどのような影響を及ぼすかを時空間イメージングにより解明することを目標とした。金ナノプレートでは,プレート面内に分極したプラズモンが励起される。プラズモンの動的空間構造を可視化した結果,静的イメージからはプラズモンモードを反映した特徴的な空間分布が可視化されること,動的なイメージからはモードの位相緩和時間を反映したイメージが可視化されることが明らかとなった。ナノプレートに色素をコートした試料について同様の測定を行ったところ,色素の二光子蛍光が効率的に励起されることが明らかとなった。また,概ねプレートのモードの空間構造を反映したラマン散乱の増強が起こることが明らかとなった。 金ナノ粒子とジアリールエテンの試料では,フォトクロミック分子の異性化におけるプラズモンの効果を究明することを目的とした。特にナノ粒子のギャップ部位では,強い増強場が発生するためジアリールエテンの多光子反応が誘起されると予想されその観測を目指した。ロッドとジアリールエテンの複合体を調製しその反応を調べた結果,CW励起条件下およびパルス励起条件下の両方において,異性化がジアリールエテン単体の場合と比べてより効率的に進行することが明らかとなった。後者では,非線形過程が顕著に起こり,CW励起条件下よりも大きなプラズモン共鳴効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
班間の共同研究により金ロッドとジアリールエテンが化学的に連結した構造を調製することに成功し,異性化に関して基礎データが得られている。また,プラズモンと色素分子の相互作用に関する知見が得られるとともに当初予想していなかった知見も得られている。例えば,ナノ粒子単体では発光測定が難しい場合であっても蛍光色素を使うとこれが可能となること,またジアリールエテンの反応がcw励起条件下でも予想以上に効率的に起こることなどが明らかとなっている。後者の反応には新しい励起過程が存在することも予想され,本研究で目指す方向への進展が期待される。以上の通り,本研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究に加えて,メソ構造を利用した光場制御とプラズモンとエキシトンの結合状態(プラキシトン状態)の研究にも着手する。例えば,ZnOやCu2Oメソ構造体に励起されるキャビティーモードを利用し,これを光源として近接して存在する分子を光照射することを検討している。これにプラズモンを介在させることで,禁制モードを許容モードに変換することが期待される。キャビティーは,ランダム構造体のような明確なキャビティーをもたない系でも発生することができる。溶液系においてもメソ構造を機能させることが原理的には可能であり,これを用いた光化学反応や光増強過程の検討を進め,光化学反応過程に新たなスキームを加えることを検討する。またプラキシトン状態の動的可視化にも取り組む。さらに,メソ構造に色素分子を相互作用させて,増強ラマン散乱や蛍光測定を行う。蛍光測定では,素励起の共鳴波長と寿命の相関を解明し,励起の空間局在性が光化学過程に及ぼす影響について解明する。これらの研究から,プラキシトン状態の応用について検討を進める計画である。
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