研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
26107003
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井村 考平 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80342632)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | メソ構造 / 高次機能制御 / 近接場相互作用 / プラズモン / フォトクロミズム |
研究実績の概要 |
メソ構造体は,光アンテナ効果や遅延効果により,ナノスケールの空間に光を閉じ込め光電場を増強する。増強光電場では,光と物質の間に強結合相互作用が誘起され,従来の光―物質相互作用を超える極めて特異な光学過程が誘起されると期待される。本研究では,メソ構造を用いた近接場光―分子相互作用の究明と,これを用いた新規光応答制御スキームの構築を目標としている。当該年度は,キャビティーモードの利用により,多段階励起や光学選択則の変調など従来の平面波近似を越えた光学特性の実現を目指した。光励起および光化学過程として,蛍光,ラマン散乱,ジアセチレンの光重合を検討した。その結果,メソ構造近傍で蛍光が増強および消光することを空間と時間分解測定により明らかにした。興味深いことに,金属内部の位置により増強が支配的になる部位があることが明らかとなった。また同様に,光重合においてもメソ構造が有用であることを明らかにした。さらに液液界面に作製した金粒子薄膜を用いた研究からは,光増強場を化学的に制御可能であることが明らかとなった。 メソ構造近傍の光近接場に関する理解を深めるため,近接場光が伝播光に空間的に変化する過程を顕微分光により研究した。この研究から,光近接場はメソ構造体近傍約100 nmに局在していること,それよりも離れた領域では建設的干渉と破壊的干渉により平滑化が進むことが明らかとなった。プラズモンとエキシトンの強結合による電子状態の変調を近接場光学測定による評価を試み,強結合に起因すると推定される特徴的なスペクトルが観測された。 以上の成果は,研究提案のとおりメソ構造が新規光化学過程に有効であることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メソ構造において複数の共鳴モードが励起される場合に,モード間の干渉が起こり従来禁制遷移である共鳴が許容遷移となることが明らかとなっている。このようなモードでは,大きな電場増強が期待され,より特異な光励起過程が誘起されると期待される。これまでの研究ではそのことを十分に検証するにはいたっていないが,これを検証する有力な近接場顕微測定法が明らかになりつつある。以上のとおり,メソ構造に関する理解はかなり深まってきている。メソ構造の応用については当初の計画程度の進捗にとどまっている一方で,近赤外光のアップコンバージョンが実現することを示唆する複数の結果が得られるなど,今後の新しい展開が期待される成果も得られつつある。以上の理由から,本研究は概ね順調に推移していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,メソ構体に励起される光近接場を光源として利用し,近接して存在する物質に,あらたな光学過程を開拓することを目的とする。これまでに,線形および非線形光学過程に近接場光が有効であること,プラズモンを活用すると光化学過程を増強することが可能なことを明らかにしている。最終年度である平成30年度は,光近接場をさらに新しい光化学過程の開拓に活用する計画である。また,これまでに特徴的な二光子発光特性,吸収特性を示すナノ物質を空間選択的に作製することに成功しており,この手法を活用した光励起状態の変調についても検討する。以上のような研究から,メソ構造に励起される光近接場を用いた新規光反応過程に関する知見の蓄積とそれを用いた光反応場の創成や新規光デバイスの実現へと展開する計画である。
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