研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
26107004
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
重田 育照 筑波大学, 数理物質系, 教授 (80376483)
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研究分担者 |
鎌田 賢司 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (90356816)
岸 亮平 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (90452408)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 3重項-3重項消光 / 1重項分裂 / 時間分解分光法 / 電子状態理論 / 分子動力学 |
研究実績の概要 |
励起子間相互作用は励起子消滅を引き起こし、光機能発現やエネルギー・物質変換の障害となっているが、同時に従来の視野を越えた励起エネルギーの利用過程を拓く可能性も秘めている。励起状態を含む複数の分子が協同的にスピン状態変化する複合励起過程(複合スピン励起子変換)は、三重項-三重項消滅(Triplet-Triplet Annihilation, TTA)、もしくはその逆過程である一重項分裂(Singlet Fission, SF)として知られており、そのエネルギー変換プロセスに関心が持たれている。しかし、関与する状態間でのエネルギー整合条件に加え、どのような因子がその変換効率や変換の向き(TTA/SF)を支配しているのかは明らかになっていない。また、溶液中での分子の振る舞いは、周りの溶媒と溶質との相互作用に支配されている。本研究では、TTAやSFなどのスピン状態変換機構の支配因子を理論・実験の双方向から明らかにすることを目的としている。 本年度は、SFやTTAの制御メカニズムの一つとして分子の開殻性に着目し、非線形光学応答量や吸収波長などの光学物性の溶媒効果の理論研究を行い、特にジアリールエテンの可逆的な光反応によるソルバトクロミズムスイッチングに関する論文をPhysical Chemistry Chemical Physics誌に発表した。また、実験的にもZscan法における2光子吸収測定における溶媒効果に関する論文をNonlinear Optics, Quantum Optics: Concepts in Modern Opticsに報告した(印刷中)。また、溶媒中での分子の配置を探索するアルゴリズムの開発を行い、柔軟な構造を持つタンパク質等の折りたたみ問題へ適用し、これらの業績に関してPhysical Chemistry Chemical Physics誌の総説を寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、理論においては、開殻因子に基づくTTA過程の分子設計指針の検討、および励起状態動力学解析のための理論・計算基盤の構築を行ってきた。エネルギー整合条件は、TTAとSFとで同一であると推測されるため、実験的に見い出されているTTA分子が開殻因子に基づくSF分子の設計指針を満たしているか検討を行った。さらにSFの初期過程に関わっていると考えられる、分子二量体におけるS状態(分子AまたはB上に一つの一重項励起子が存在する状態)およびD状態(2電子励起状態)の二つの状態に特に着目し、これら二状態の間の遷移に関する分子振動の効果を量子化学計算により算出した。その結果、エネルギー障壁がある場合にも振動の効果によりエネルギー差の変化、および非対角項の増大が起きることによりS-D状態間の遷移、すなわちSFが効率的に起きる可能性を示すことが出来た(論文投稿準備中)。 また実験においては、これまで予備的検討を行って来ているポルフィリン錯体/9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)類ではDMSOを溶媒に使うと高いUC発光強度が得られることが分かっていることから、DPAの誘導体、溶媒系の検討、および他の三重項増感剤・アクセプター系についても同様に調べた。本年度は特に、DPAの誘導体の研究を中心に解析を行ってきた。DPAの2つのフェニル基の2位と6位を2カ所アルキル基で架橋した誘導体では、TTAによるUCの発光強度が従来のDPAに比べ2倍程度になり、また、そのアルキル基の鎖長(n=6~8)に応じて、励起後の振る舞いに異なる振る舞いを示すことが判った。これらの物質に対するUC量子収率のエミッター濃度依存性は、濃度上昇と共に単調増加するのに対し、従来のDPAは減少することから、アルキル基保護によってエキシマーによるクエンチが押さえられたものと考えている(論文投稿準備中)。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度においては、分子設計指針の検証のため、前年度分担研究者の鎌田の測定した系に関して、高精度計算および分子動力学計算を用いた理論研究を推進し、構造機能相関のさらなる精緻化や、励起子変換の寿命およびダイナミクスの詳細な解析を行うことで、実験・理論の双方から検討を行う。また実験に関しては、発光減衰測定を種々の分子・溶媒系で進めると共に、過渡吸収測定光学系を導入して、TTA過程に関わる励起三重項のダイナミクスをTn-T1吸収測定で調べる。さらに分子拡散を制限する目的で、孔径数十nmの多孔質ガラスに溶液系を担持させた系について、定常光ならびに時間分解発光減衰の測定を行い、TTAによる変換効率ηと反応速度定数kTTAに与える影響を明らかにしていく。このため目的のために、年度途中からポスドクを2名雇用し集中して課題に取り組む。 平成28年度以降は、分子拡散を伴わない励起子拡散系を目指して、固体系でのTTA過程を理論・実験の双方から解明していく。具体的には、複数の分子からなるクラスター系における同様の理論解析、および、固体中での三重項の拡散距離を顕微分光測定などの手法により明らかにすることを目指す。このことは、分子間の相互配置が固定された固体系を用いることで、理論との対比がより明確になると期待されるとともに、超分子系や分子集合体系での高効率のUC発光を得ることに繋がり、新しい複合励起モードの開発に繋がる。また、領域内共同研究によりS蛍光相関分光など他の実験手法を持つ研究者との共同研究により多角的に進める。
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