計画研究
本研究では、分光学的実験と理論計算の両面から三重項-三重項消滅エネルギー変換(Triplet-Triplet Annihilation Up-conversion, TTA UC)の支配因子の抽出と機構の解明を通して、有用な新規物質の設計指針提案を目的としている。H28年はキャスト法による固体系TTA-UCを創出した。結晶状態に関して、TTA-UC発光強度の発光強度依存性が2次から1次へ変化する発光強度(Ith)に関して、C7-sDPAはDPAに比べ2~3桁小さく、また、量子収率も20%と、DPAの0.5~6%に比べて格段に高い値を示すことが判明した。これらの結晶において3重項増感剤の空間分布を調べるため、顕微分光観察を行うことでDPAでは結晶の一部が、C7-sDPAでは比較的一様に発光することが判明した。一方、これまで実験が進められてきた溶液中でのDPAについては、2量体の電子カップリングの配向および距離依存性を定量的に評価した。また、拡散律速反応や回転緩和などの時定数と比較することで、溶液中でのTTA-UCの反応メカニズムの詳細を明らかにした。また、一重項分裂(Singlet Fission, SF)の機構解明と新しい設計指針の構築を目指して、全く新しいクラスのSF分子集合系、すなわち「パンケーキ結合を有する開殻集合系」を提案し、その機構解明との設計原理を提案した。対象とした系は、フェナレニルラジカル分子のπ積層からなる開殻集合系である。開殻集合系では、従来の分子系では見られない特性としてラジカル分子由来の分子軌道間相互作用を活用することで、電荷輸送特性とSF速度の両方を増大させることが可能であること、分子配向の変化に対しても高いSF収率が維持されること等、従来のSF集合系にはない多くの利点が期待されることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
本年度、理論計算においては、溶液中での9,10ジフェニルアントラセン(DPA)およびその誘導体に対して、三重項-三重項消光のメカニズム解明を行なった。エネルギーマッチング条件、電子カップリング行列要素、溶液中での拡散係数の各種理論計算値を定量的に評価することで、溶液中でのDPAのTTAのメカニズムを明らかにした(Chemistry Letters誌に論文掲載決定)。また、一重項分裂(Singlet Fission, SF)に関しては、その機構解明と新しい設計指針の構築を目指して、全く新しいクラスのSF分子集合系である「パンケーキ結合を有する開殻集合系」を提案した。これらの成果は、Physical Chemistry Chemical Physics誌に採択されるなど、高く評価されている。一方、実験研究においては、溶液中のDPAおよびその誘導体の時間分解測定を行い、その反応の時定数を決定し、理論研究との整合性を得た。さらに、キャスト法による固体系TTA-UCを創出した。結晶状態に関して、TTA-UC発光強度の発光強度依存性が2次から1次へ変化する発光強度(Ith)に関して、C7-sDPAはDPAに比べ2~3桁小さく、また、量子収率も20%と、DPAの0.5~6%に比べて格段に高い値を示すことが判明した。これらの結晶において3重項増感剤の空間分布を調べるため、顕微分光観察を行うことでDPAでは結晶の一部が、C7-sDPAでは比較的一様に発光することが判明した。これらの成果は、Materials Horizon誌に掲載された。
平成29年度においては、分子設計指針の検証のため、前年度、鎌田(分担研究者)の測定した固体系のTTAに関して、高精度計算および分子動力学計算を用いた理論研究を推進し、構造機能相関のさらなる精緻化や、励起子変換の寿命およびダイナミクスの詳細な解析を行うことで実験・理論の双方からの検証を行う。また、新たな化合物として直鎖オクチル基をDPAおよびC7-sDPAのフェニル基のパラ位に導入(POc-)、もしくはアントラセン環の2,6位に導入(AOc-)した各誘導体した化合物に対して、キャスト法を用いた固体TTA-UC実験を行う。最終年度は、溶液、固体、液晶系などさまざまな条件でのTTA過程を理論・実験の双方から解明し、TTA UCの分子設計を確立する。具体的には、分子動力学計算により構造を探索し、その構造群の中から複数の分子からなるクラスター系を抽出し、フラグメント分子軌道法により電子状態解析を行う。実験では、上記の系の全てに対して、高速分光や構造解析によりTTA-UCの実用化に向けた研究開発を行う。これらの研究を通して、超分子系や分子集合体系での高効率のUC発光を達成することで、新しい複合励起モードの開発に繋がるものと考えている。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (23件) (うち国際共著 4件、 査読あり 23件、 謝辞記載あり 20件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 13件、 招待講演 13件) 産業財産権 (1件)
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