研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
26107004
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
重田 育照 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (80376483)
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研究分担者 |
鎌田 賢司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (90356816)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 三重項-三重項消光 / 一重項分裂 / 高精度量子化学計算 / 分子動力学計算 / 時間分解分光 |
研究実績の概要 |
本研究では、分光学的実験と理論計算の両面から三重項-三重項消滅エネルギー変換(Triplet-Triplet Annihilation Up-conversion, TTA UC)の支配因子の抽出と機構の解明を通して、有用な新規物質の設計指針提案を目的としている。H29年はキャスト法による固体系TTA-UCを創出した。特に、発光体としてルブレン、増感剤としてメゾテトラ-3, 5-ジブチルフェニルテトラアントラポルフィリンパラジウム錯体(Pd-TPTAP)の系(785nm(吸収)→560nm(発光))に対して、同様にキャスト法により微結晶を作成しTTA-UCを確認した。透過像と発光像が一致することから、均一なサンプルを作成することに成功した。また、励起光強度依存性や量子収率の測定、および結晶条件の再検討を行い、近赤外光のアップコンバージョン系の確立に成功した。 一方、これまで実験が進められてきた溶液中でのCn-sDPAについては、2量体の電子カップリングの配向および距離依存性を定量的に評価した。この系ではC7-sDPAが特に大きな電子カップリングを有することがわかった。sDPAの系では、アントラセン部位のπ軌道が、アルキル鎖のσ軌道へ非局在化することで、隣接する分子間の電子カップリングの寄与が増大することを解明した。また、溶液中の2分子間距離の分布もC7-sDPAが近距離にいる割合が他のsDPAより大きいことから、C7-sDPAが特に高い量子収率を持つことが説明できた。 また、一重項分裂に関しては、分子軌道と配置間相互作用係数の2段階のユニタリー変換を用いて、SFを記述する(準)透熱基底ハミルトニアンを作成する手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論計算においては、29年度は溶液中での9,10ジフェニルアントラセン(DPA)およびその誘導体に対して、三重項-三重項消光(TTA)のメカニズム解明を行なった。エネルギーマッチング条件、電子カップリング行列要素、溶液中での拡散係数の各種理論計算値を定量的に評価することで、溶液中でのDPAのTTAのメカニズムを明らかにした。特に、アルキル鎖で架橋したCn-sDPA系については、非局在化によって生ずる擬π軌道の影響により隣接する分子間の電子カップリングが増大するという、新たなメカニズムを提唱した(Journal of Physical Chemistry C掲載)。 また、実験研究においては、発光体としてルブレン、増感剤としてメゾテトラ-3, 5-ジブチルフェニルテトラアントラポルフィリンパラジウム錯体(Pd-TPTAP)の系(785nm(吸収)→560nm(発光))に対してキャスト法を用いた微結晶サンプルのTTA-UCを確認するなど、これまでの系(DPAおよびOEP-Pt錯体)での知見を近赤外アップコンバージョン系に適用することで、新規TTA-UC系の研究に着手した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、溶液、固体、液晶系などさまざまな条件での三重項-三重項消光(TTA)過程を理論・実験の双方から解明し、TTAアップコンバージョン(UC)の分子設計を確立する。具体的には、分子動力学計算により構造を探索し、その構造群の中から複数の分子からなるクラスター系を抽出し、フラグメント分子軌道法により電子状態解析を行う。実験では、上記の系の全てに対して、高速分光や構造解析によりTTA-UCの実用化に向けた研究開発を行う。これらの研究を通して、超分子系や分子集合体系での高効率のUC発光を達成することで、新しい複合励起モードの開発に繋がるものと考えている。 また、一重項分裂(SF)に関しては、電子カップリングの定量的評価法の開発に加え、核の量子論的な運動と電子の緩和過程の効果も取り入れた計算手法を開発する。これらの実装のため、量子マスター方程式に対して階層方程式に基づく近似計算法を導入し、コヒーレントなSF過程の研究手段を確立する。
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