研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
26107005
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
玉井 尚登 関西学院大学, 理工学部, 教授 (60163664)
|
研究分担者 |
増尾 貞弘 関西学院大学, 理工学部, 教授 (80379073)
|
研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
|
キーワード | 半導体ナノ微粒子 / 多励起子素過程 / フォトクロミック分子 / 時間分解レーザー分光 / 単一微粒子分光 |
研究実績の概要 |
1.次元性を制御した半導体ナノ微粒子として,コア-シェル型CdSe/CdS 量子ドット(QDs),CdSeナノプレート(NPLs),コア-シェル型CdSe/CdS NPLs,コア-クラウン型CdSe/CdTe NPLsを合成し,フェムト秒状態選択励起により多励起子素過程とホットキャリアの緩和過程を解析した。共同研究によりZnS-AgInS2固溶体(ZAIS)ナノ微粒子のキャリア増幅もフェムト秒分光で解析した。さらに,アクセプター分子としてメチルビオローゲンを用いた外部へのキャリア取り出しに関しても,ホットな高励起状態や多励起子の寄与および量子閉じ込めの次元性との関係を研究した。その結果,ZAISではキャリア増幅が観測されない事,しかし高励起状態からのホット電子移動が光電変換効率の増加を誘起している事を明らかにした。また,コア-シェル型CdSe/CdS QDsで観測されるバンド端からの電子移動速度はシェル厚みと共に遅くなるが,ホット電子移動の速度定数はシェルの厚みに余り依存しない事を見いだした。 2.QDsだけでなく,量子井戸に対応するCdSe NPLsにも光応答分子を溶媒支援吸着法により接合させてハイブリッド系を構築し,ジアリールエテン系光応答分子のフォトクロミック閉環・開環反応によるNPLs発光の光スイッチング特性を解析した。CdSe NPLsでは殆ど発光スイッチングを誘起できなかったが,コア-クラウン型CdSe/CdTe NPLsでは発光スイッチングを誘起出来ることを見いだした。 3.AFMチップを銀コートし,局在表面プラズモン(LSPR)によって半導体ナノ微粒子の多励起子発光を制御する新規手法の研究を行った。単一半導体QDへのFMチップによる距離依存性と励起レーザーの波長依存性の解析から,距離制御を行い,LSPRによる単一QDの多励起子制御に成功した。またLSPRに関連して,Pd NPLs,Pd-Ag コア-シェルNPLsのコヒーレント音響フォノンダイナミクスを解析した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
半導体ナノ微粒子系として,コア-シェル型CdSe/CdS 量子ドット(QDs)だけでなく,コア-シェル型CdSe/CdS ナノプレート(NPLs),コア-クラウン型CdSe/CdTe NPLsなど,合成のかなり難しい一次元量子閉じ込め系NPLsのコロイド合成に成功した。これらの新しい系の励起子素過程は研究例が殆ど無く,それに対しフェムト秒分光の立場から解明を行ってきたことは非常に大きな進展があると言える。さらに,コア-シェル型CdSe/CdS QDsでは,ホット電子移動のシェル厚み依存性がバンド端からの電子移動のシェル厚み依存性と全く異なるという新規現象を実験的に見出した。世界的に見てホット電子移動の研究そのものが限られていることもあるが,この発見は理論家を含めて解明すべき新しい研究テーマになると考えられる。 また,CdSe NPLsやコア-クラウン型CdSe/CdTe NPLsにジアリールエテン系分子を接合したハイブリッド系を構築し,この2つのNPLsで発光の光スイッチングに大きな差があることを見出したが,これは光スイッチングのメカニズム解明に大きな一歩を踏み出すものである。 さらに,銀コートしたAFMチップを室温で単一QDに近づけてnm精度で距離制御を行いながら発光特性を時間分解単一微粒子分光により解明する事は,極めて難度の高い実験であり,これに成功したことは特筆すべき事である(Nano Lett. 16, 5770-5778 (2016) )。
|
今後の研究の推進方策 |
1.コア-シェル型のCdSe/CdS QDs,CdSe/CdS NRs,CdSe/CdS NPLsおよびコア-クラウン型CdSe/CdTe NPLs等,コアの周りに別の半導体をシェルやクラウンで覆い波動関数制御したナノ微粒子を試料として用い,フェムト秒状態選択励起分光を適用し,多励起子素過程とホットキャリアの緩和過程を解析する。更にこれらの系にアクセプター系有機分子を接続したハイブリッド系を構築し,高励起状態およびバンド端からのキャリア移動,マルチキャリア移動を解析すると共に,シェル厚み依存性を調べ,ナノ微粒子に特有なキャリア移動素過程の解明を試みる。ZnTe-AgInTe2固溶体ナノ微粒子(ZAITe)も用い,キャリア増幅および禁制遷移の関与する多励起子過程を解析する。 2.吸着の観点から,水溶性CdTe QDsおよびその類縁ナノ微粒子を合成し,種々の光応答分子をこれらに吸着させハイブリッド型光応答分子システムを構築する。新規系としてコア-シェル型CdSe/CdS NPLsおよびコア-クラウン型CdSe/CdTe NPLsにも光応答分子を吸着させたハイブリッド系の構築も行う。これらの系におけるフォトクロミック閉環・開環反応による半導体ナノ微粒子の発光特性の光スイッチングとその吸着分子数依存性を解析すると共に,その反応素過程をフェムト秒過渡吸収分光等により解明する。 3.LSPRを有するプラズモニックナノ構造体による多励起子緩和制御の詳細な知見を得るために,AFMチップコートの金属種を変えLSPRのチューニング効果を検討する。またQDsだけでなく,量子閉じ込め次元の異なったNPLsやNRs,ペロブスカイト型QDsを対象として研究を遂行する。種々のナノ微粒子-光応答分子ハイブリッド系に於ける単一微粒子測定を通じて,フォトクロミック反応による励起子消光制御を行い,単一光子発生と多光子発生の制御を試みる。また,超解像イメージングへの応用の可能性も検討する。
|