研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
26107011
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
朝日 剛 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (20243165)
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研究分担者 |
石橋 千英 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 講師 (10506447)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 光反応 / ナノ結晶 / 高密度励起 / 協同効果 / 時間分解分光 |
研究実績の概要 |
固体中の複数分子が光励起されることによって初めて誘起される協同的反応・構造変化を中心に、100nmサイズのナノ結晶を対象に研究を進めた。主たる研究成果を以下にまとめる。 1. 高密度励起フォトクロミック反応:前年度見出した、ジアリールエテン(DAE)誘導体ナノ粒子のフォトクロミック反応収率の増大効果の機構を詳細に検討した。ナノ秒パルス励起による光開環反応収率がレーザー強度に対して非線形に増大する現象が粒子サイズおよび励起波長での粒子の吸収係数に対する依存を明らかにした。また、フェムト秒パルス励起では同じ励起道度でも反応収率の増大が起こらないことが新たに分かった。これらの実験結果と光反応収率の温度依存性および励起分子密度の定量的評価などから、その機構がパルスレーザー励起によるナノ粒子の過渡的な温度上昇によるものと結論した。一方で、ナノ粒子コロイドのパルスレーザー加熱と冷却のダイナミクスの特徴を時間分解分光により明らかにし、フォトクロミック反応収率に対する、ナノ秒パルス励起過渡加熱が通常の温度効果とは異なることを明らかにした。 2.フタロシアニンナノ結晶コロイドの結晶相転移: ナノ秒パルスレーザーによる過渡加熱が通常の温度効果と異なる例として、熱安定相であるβ相のフタロシアニンナノ結晶にナノ秒レーザーを照射すると準熱安定相であるα相へ変化する現象を見出した。この現象は単純な温度上昇では説明できない。また、過渡吸収分光により、この相変化がレーザーパルス幅程度の時間10nsで起こることを明らかにした。 3.混合ナノ粒子系における光誘起蛍光スイッチング:DAEを添加した各種蛍光色素ナノ粒子において、DAEのフォトクロミック反応による蛍光強度のスイッチング現象を実証した。蛍光強度のスイッチングの機構を共鳴型長距離エネルギー移動蛍光消光に基づいて考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の重点課題としたパルスレーザー励起による高密度励起光反応において、フォトクロミック反応や結晶構造相転移におけるナノ粒子の過渡加熱の効果を詳細に検討し、通常加熱による温度効果とは異なる特徴を明確にすることができた。光照射による固体試料の加熱は一般的に観察される現象であるが、本研究で提案する過渡効果は、固体中の複数分子をピコ秒・ナノ秒の時間内で同時に励起することによって初めて現れるものであり、固体光反応制御の新たな視点を与えるものと考えている。一方で、固体の高密度励起効果として期待される、複数の励起分子や反応中間体の相互作用による新規光反応については、十分な成果が得られておらず、次年度への課題となった。 また、光誘起蛍光スイッチングや単一ナノ粒子蛍光分光、フェムト秒過渡吸収測定の実験を通して、領域内共同研究およびフランスグループとの国際共同研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度同様、ナノ結晶・粒子のパルスレーザー励起による光反応を中心に以下の2点に重点を置き研究を進める。ひとつは、ナノ粒子コロイドのパルスレーザー励起に特有の過渡加熱効果の分子論的な機構解明。ナノ粒子コロイドでは、分子の電子励起エネルギーが無輻射緩和を通してピコ秒時間スケールで振動・熱エネルギーに変換されることによるナノ粒子の加熱と同時に、媒体への熱拡散によるサブナノ秒時間スケールの冷却が起こるため、パルスレーザー加熱は、通常の加熱による温度効果とは異なるものであることがすでに示唆されている。つまり、温度ではなく温度の時間変化の勾配が重要であると考えている。こうしたナノ粒子のパルスレーザー加熱のダイナミクスをより詳細に検討することによって、光反応への過渡加熱効果の理解を深める。もうひとつは、熱的な効果ではなく、複数励起分子や反応中間体の相互作用による協同的光反応をについて検討する。これまでの研究成果を踏まえ、ジアセチレンの固相重合反応、スピロオキサジンの光着色反応について研究を進める。
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