研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
26107012
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
内田 欣吾 龍谷大学, 理工学部, 教授 (70213436)
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研究分担者 |
横島 智 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (00532863)
中村 振一郎 独立行政法人理化学研究所, イノベーション推進センター, 特別招聘研究員 (10393480)
辻岡 強 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (30346225)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2019-03-31
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キーワード | 複合材料・物性 / 表面・界面物性 / 有機工業化学 / エピタキシャル / 細胞・組織 |
研究実績の概要 |
本研究では、基板表面に結晶を並べて成長させ、これらが光で屈曲するシステムの作成等、分子が複合的に協調して機能するシステムの創生を目標としている。我々は、光の照射でフォトクロミック色素の薄膜表面に針状結晶を成長させる技術と光照射で屈曲する結晶を作成してきた。これらを併せもつ材料を作成し、表面でのマニピュレーション機能や結晶を整然と並べフォトニック結晶の作成を目指している。 光で曲がる結晶の解析については、分子間水素結合ネットワークをもつジアリールエテン結晶をSPring 8にて解析した。この昇華で作成される結晶は厚みが数ミクロンと薄いため、市販のX線解析装置では回析不能であった。現在、測定データを解析中であるが、結晶格子の光照射による変化を用いては、結晶の屈曲現象の説明はできた。光により微結晶表面に結晶成長を引き起こす研究に対しては、新たに合成した誘導体を用いて、今までの粒状、針状結晶に加え、板状結晶も成長させることができた。これらについてもガラス転移温度以上であることが結晶成長に必要であることを確認した。 ジアリールエテン微結晶表面上で発現したロータス効果とぺタル効果について、閉環体の針状結晶を円筒に見立てたモデルを用いて理論的な考察を行い、水滴の自重と円筒のピン止め力の関係から半定量的に説明できることを論文発表した。 さらに、光で可逆的に表面形状が変わる面での細胞脱着能力を検討する目的でMDCK細胞を用いた実験を行ったところ、光照射でジアリールエテンが細胞死を誘起することを確認した。この細胞死の要因は、2タイプあり、スルホン基をもつジアリールエテンの場合は、光照射で二酸化硫黄ガスが発生するためであり、チアゾール環をアリール基にもつジアリールエテンの場合は、閉環体がDNAなどにインターカレーションしてカスバーゼカスケードが活性化され、細胞死(アポトーシス)が誘起されたのを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、予定した化合物を合成し、エピタキシャル結晶成長の条件を変えて検討した。以前、見出したジアリールエテン誘導体をガラス基板上に膜形成すると、その開環体の単結晶の110面のみを表面にした特異的な結晶成長が見られた。これに光で曲がる結晶となる誘導体のある面の結晶格子が合うことから、光で屈曲する結晶のエピタキシャル成長を上位着により検討した。しかし、現在のところ後者の誘導体を蒸着すると基板となる有機結晶が溶け、新たな誘導体結晶との接合がうまくできなかった。蒸着基板との距離の調節や、基板の温度を制御するなど検討している。ガラス基板上に一つの結晶面を表にして広がる新たな誘導体を更に一種類見出した。その誘導体を利用した屈曲結晶の成長も現在検討中である。一方、光表面形状変化の研究では、新たなジアリールエテンを用いて、紫外光照射により板状結晶が出現し、可視光照射により可逆的に消失することを確認した。 これまで光照射によりロータス効果を発現すると報告してきた微結晶表面は、直径1-2ミクロン、長さ10数ミクロンの針状結晶が表面を覆ったものであった。実際のハスの葉の表面は二重粗さ(ダブルラフネス)構造と呼ばれ、直径10ミクロンの突起の表面に直径0.1ミクロン、長さ約0.5ミクロン程度の油脂の結晶が覆っている。ハスの葉の構造に類似した表面を作成するためにまず、実際のハスの葉を採取し、表面形状を解析した。さらにハスの葉表面をアルコールなどの有機溶媒で洗浄し、油脂を洗い落とすことによりロータス効果は失われ、濡れる表面になった。洗浄前の油脂チューブのある表面と洗浄後の無い表面の解析から、先のモデルの濡れ性検討が再現でき、われわれの理論が適切であることを確認した。 光で細胞死をもたらしたジアリールエテン類に関しては、一件は「光応答性細胞処理剤」として特許出願を行い、もう1件については特許出願準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの内容を継続しておこなうことに加え、本年度は以下の3点に重点的に取り組む予定である。 新たなジアリールエテン誘導体を合成し、分子構造との結晶形の相関ライブラリーを増やしながら、光応答性表面の作成をおこなっていく。新たな分子構造をも持たせることで、結晶成長や光屈曲現象に対して新しい挙動や知見が得られると考えられる。エピタキシャル成長に関しても化合物の選択だけでなく昇華速度や基板温度の影響などの因子を変えて結晶成長の制御を継続する。 閾値をもつゲルの集合体の光応答についてもアゾベンゼンだけでなく新たな光応答システムを作成しする。、アゾベンゼン系との応答の違いや分子の集合形態などについて比較検討をおこなう。 光の照射波長を変えて細胞毒性が変わる現象は世界的に報告例が無く、また、光線療法の欠点である光毒性の回避方法となりえる可能性がある大きなテーマである。細胞と色素の励起状態での相互作用の可能性について慎重に検討を進めたい。
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