研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
26107012
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
内田 欣吾 龍谷大学, 理工学部, 教授 (70213436)
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研究分担者 |
辻岡 強 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (30346225)
横島 智 東京薬科大学, 薬学部, 教授 (00532863)
緒方 浩二 国立研究開発法人理化学研究所, イノベーション推進センター, 研究員 (40265715)
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研究期間 (年度) |
2014-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | フォトクロミズム / 結晶成長 / 分子協調 / 超撥水性 / 超親水性 / ジアリールエテン / アポトーシス / イオン性液体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、分子設計から出発しマクロスコピックな機能を有する光応答系を構築することである。つまり、結晶内にある分子に光異性化反応を起こさせ、自己組織化を伴う協調現象の結果、新たな光応答機能機能をもった薄膜表面を作成、および配向した複数の超分子からなる協働的分子異性化システムを創成する。具体的には、(1)ジアリールエテン結晶表面の形状変化の研究および(2)分子集合体の協調的分子異性化の研究を行う。 ジアリールエテンの薄膜表面の結晶成長により、水滴の接触角が150°を超える超撥水性を示すロータス効果を示すことは既に報告していた。今回、先ず天然のハスの葉の構造を調べた。ダブルラフネス構造という直径10ミクロン程度の突起が、さらに直径0.2 ミクロン、長さ1ミクロン程度の円筒形の植物ワックス柱で覆われた構造をしている。このワックスを洗い落とすとロータス効果が消失し、ダブルラフネス構造の重要性を確認した。我々は、あるジアリールエテンを用い、このダブルラフネス構造を表面にもつ微結晶膜を作成した。このダブルラフネス結晶膜は、落下する水滴に対しても、天然のハスの葉同様に水滴のバウンシング(跳ねる)現象が見られ、ダブルラフネス構造の重要性が再確認された。また、新たに合成したイオン性液体の構造を分子の両側にもつジアリールエテンは、光によりカタツムリの殻の様に超親水性を可逆的に発現する微結晶膜を与えた。さらに、光により凸凹を生成する膜上での細胞の吸脱着を試みたところ、細胞死が誘起された。その原因を探ることで、光を照射すると二酸化硫黄を発生するジアリールエテンや、カスパーゼ経路を活性化し細胞のアポトーシスを誘起するジアリールエテンを見出し、分子生物学への寄与も期待できる結果を得た。 光で屈曲する結晶を研究する過程で、光照射により結晶が粉々に砕けるフォトサリエント効果を示す誘導体を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、基板平面上に光で屈曲する結晶を並べて成長させ、紫外光照射により、これらすべての結晶を屈曲させて物質輸送を行う光マニピュレーターを作る計画は、用いた新ジアリールエテン誘導体が、液滴を転がせるような広い面積にわたって結晶成長しなかった。 一方で従来のジアリールエテン誘導体を用いてハスの葉の表面構造をまねたダブルラフネス構造を作成する条件が明らかになった。閉環体針状結晶を成長させた表面を暗所で温度を上げて保持すると、オストワルド熟成が進行し、先の針状結晶がより大きな棒状結晶に変換される。この表面に紫外光を照射することで棒状結晶の間の表面に生えた針状結晶は、続くオストワルド熟成で棒状結晶に取り込まれ、棒状結晶を更に大きく成長させることができた。この操作を繰り返すことで棒状結晶のサイズを制御できることがわかった。可視光を照射すると、この大きな棒状結晶表面を開環体のキュービック結晶が覆った凸凹状態に変換でき、ここに紫外光を照射するとダブルラフネス構造ができることを見出した。この構造表面は、フラクタル解析法の一つであるボックスカウンティング法によって解析すると、粗さ分布が天然のハスの葉に類似しており、さらに落下する水滴に対しても非常に似通った性質があることが判明した。このことから、天然のハスの葉のもつダブルラフネス構造の重要性が再確認できた。 光による表面形状変化を利用して細胞の光脱着を試みた結果、二種類のジアリールエテン薄膜状で細胞死が観測された。一つは、分解により二酸化硫黄を発生することで細胞死(ネクローシス)を引き起すジアリールエテンであった。光分解しないチアゾール環をもつジアリールエテンでも細胞死が観察されたが、これは閉環体がDNAにインターカレートすることでアポトーシスを誘起することが分かり、「光応答性細胞殺傷剤および光線力学療法用薬剤」として特許出願した。
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今後の研究の推進方策 |
新たなジアリールエテン誘導体を合成し、分子構造との結晶形の相関ライブラリーを増やしながら、光応答性表面の作成をおこなっていく。新たな分子構造をもたせることで、結晶成長や光屈曲現象に対して新しい知見が得られると考えられる。エピタキシャル成長に関しても化合物の選択だけでなく昇華速度や温度などの因子を変えて結晶成長の制御を継続する。 僅かな分子構造の変換が、光屈曲する結晶を光照射でバラバラに破壊する現象も見出しており、分子構造と結晶の光応答挙動の相関を明らかにすることは、ますます興味深く感じられている。 閾値をもつゲルの集合体の光応答についてもアゾベンゼンだけでなく新たな光応答システムを作成する。従来は、照射光のフォトン密度によって、分子集合体が光応答するかしないかを議論してきたが、光応答する時はドミノ的に反応し、逆反応でもドミノ的な光応答が起こるなどのモデルをデザインしたい。 光の照射波長を変えて細胞毒性が変わる現象は世界的に報告例が無く、また、光線療法の欠点である光毒性の回避方法となりえる可能性がある大きなテーマである。細胞と色素の励起状態での相互作用の可能性について慎重に検討を進めたい。
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