研究実績の概要 |
ジアリールエテンのエテン部の構造を従来の5員環のぺルフルオロシクロペンテン環から6員環のぺルフルオロシクロヘキセン環に替えた誘導体を合成したところ、光で結晶がバラバラに砕け散るフォトサリエント現象に遭遇した。この結晶を昇華すると結晶中央部に穴の開いた結晶が 約5%の収率で作成できた。この結晶は、幅5~30ミクロン、長さ100ミクロン程度の大きさであり、生長メカニズムはオストワルド熟成によるもので、結晶中央部の空洞が逆三角形になっている形状から、岩永モデルと呼ばれる無機の結晶でも知られた成長メカニズムによるものであると考えられた。 この中空結晶の構造をSPring-8 (BL40XU)にて解析した。中空の結晶構造は, 前述した穴の無い結晶の構造と分子配置などは全く同じであった。紫外光を照射すると結晶格子のa,b軸が伸び, c軸が縮むことが確認された。従って, 中空結晶に紫外光を照射すると結晶の長軸と厚さ方向に伸長し, 幅が収縮すると予想され、さらに、 光照射面と非照射面間の伸びの差も大きくなり, 中空構造のため歪みがかかる四隅から結晶が破壊することが予想された。中央部の空洞に直径1ミクロンの蛍光ビーズを詰め, 紫外光を照射すると, 結晶は赤紫色へと変色するとともに破裂し, 内包したビーズも結晶が四散するのに匹敵する秒速1~2メートルの速度で飛び散るのが観察された。 これは, ホウセンカの種飛ばしを光で誘起したのに匹敵する現象で, 内容物を光で発散させる機能を示したものである。内容物に薬剤を用いれば, 光照射で薬を放出するシステムができる。ミクロな分子構造変化がマクロな薬品放出機能に結びつき、本新学術領域の一つの成果を達成した。 また、ハスの葉のダブルラフネス表面の精密制御により、ハスの葉を上回る水滴をはじく表面を構築した他、光で屈曲する針状結晶を並べて生やすことにも成功した。
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