研究実績の概要 |
Caspase-1依存性炎症誘導性細胞死であるパイロトーシスの分子機構と役割の解明を目的とした研究を行い、本年度は下記の結果を得た。1)昨年度見出したパイロトーシスシグナル伝達因子(PYST)候補21種類の内、PYST1はCaspase-1結合蛋白であったため、そのCaspase-1結合領域を絞り込み、さらにアラニンスキャニングを行ったが、Caspase-1結合能を失った変異体は得られなかった。PYST1のカスパーゼ1結合部位は2ヶ所以上存在する可能性が考えられる。また、PYST1がCaspase-1の基質となりうることを見出した。PYST1以外のPYST候補遺伝子を個別にsiRNAでノックダウンを行い、PYST2, PYST4, PYST9, PYST19に対するsiRNAがパイロトーシスを部分的に抑制することを見出した。2)Fv三量体とCaspase-1、8または9の融合蛋白を発現するマウス腫瘍細胞株(EG7-C1, C8, C9)を用い、腫瘍細胞にパイロトーシスやアポトーシスを誘導した際の治療効果と腫瘍免疫誘導効率を比較した。昨年度樹立した細胞株では、EG7-C8腫瘍で十分な治療効果が得られなかったため、3種類の細胞株を全て作成し直したところ、いずれの腫瘍もAP20187投与により著明な増殖抑制・退縮が誘導された。腫瘍が退縮したマウスに親株のEG7細胞を攻撃接種したところ、EG7-C1腫瘍が退縮したマウスはEG7-C8やC9が退縮したマウスに比べ、EG7腫瘍の増殖を拒絶する率が有意に高かった。EG7-C1とC9 腫瘍の比較では、昨年度の結果が独立に樹立した細胞株で再現された。3)昨年度同定したアポトーシス細胞、パイロトーシス細胞あるいはその両者から放出される特徴的なメタボライトの代謝に関わる酵素群がカスパーゼの基質となるか検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1)パイロトーシスの分子機構の解明:PYST1のCaspase-1結合部位が複数存在する可能性があるため、結合領域をさらに細分化し、アラニンスキャニング法で結合に寄与するアミノ酸を同定する。これらのアミノ酸に変異を導入して、Caspase-1結合能を失ったPYST1遺伝子を細胞にノックインすることで、パイロトーシスにおけるPYST1の重要性を検証する。また、PYST1がCaspase-1の基質となることが判明したので、切断部位を特定し、Caspase-1で切断されないPYST1遺伝子を作成して、同様にパイロトーシスに対する影響を検討する。2)腫瘍細胞内に浸潤する免疫細胞の解析で、個体差が大きく結論が導けなかった原因は、腫瘍内のほとんど全ての腫瘍細胞が細胞死を起こしてしまう状況で実験を行なったためである可能性が考えられる。そこで、EG7-C1, C8, 又はC9細胞と親株のEG7細胞を一定の割合で混合して腫瘍を作らせることで、一部の細胞のみがプログラム細胞死を起こす状況を作り出し、細胞浸潤、血管新生、転移、浸潤などに対するパイロトーシスとアポトーシスの影響を比較する実験系を樹立する。3)パイロトーシスの新規ダイイングコードの探索:引き続き、カスパーゼの基質となる代謝酵素の探索とメタボライトの生理活性について検討する。これまで、アポトーシスやパイロトーシスを選択的に誘導しうるヒト細胞株を用いて、放出されるメタボライトの網羅的比較を行って来た。放出されるメタボライトの特徴から細胞死の様式を区別することが出来れば、様々な疾患において生体内で生じている細胞死の様式を、簡便な血液検査で調べることが可能となる。このことを動物実験で実証することを目指しす。この目的で、現在マウス細胞を用いてアポトーシス細胞とパイロトーシス細胞の放出するメタボライトの比較を行っている。
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