計画研究
パイロトーシスはカスパーゼ1などが活性化されることで引き起こされるネクローシス様の炎症誘導性プログラム細胞死である。細胞内寄生細菌などに感染したマクロファージがパイロトーシスを起こすことが良く知られているが、T細胞や腸管上皮細胞などもパイロトーシスを起こす。我々は、腫瘍細胞にもパイロトーシスを誘導しうることを示してきた。本研究はパイロトーシスの分子機構と役割を明らかにすることを目的とし、本年度は以下の成果を得た。1)近年、パイロトーシス実行分子としてガスダーミンDが同定されが、ガスダーミンD欠損マクロファージは細菌感染などでカスパーゼ1が活性化されると、野生型より遅れて細胞死を起こす。このことから、カスパーゼ1依存性ガスダーミンD非依存性の細胞死誘導機構の存在が予想される。そこで、ガスダーミンD欠損細胞などを作成して解析したところ、ガスダーミンD非存在下ではカスパーゼ1によりBidが切断され、アポトーシスが誘導されることが判明した(投稿中)。2)マウス体内の腫瘍細胞にアポトーシスあるいはパイロトーシスを選択的に誘導する実験系を作成し、腫瘍細胞にパイロトーシスを誘導した方がパイロトーシスを誘導した場合より強い抗腫瘍免疫が誘導されることを見出した。本年度は、腫瘍にアポトーシスあるいはパイロトーシスを誘導した後の腫瘍内浸潤細胞の組成やサイトカイン産生、抗腫瘍CTL活性などを比較した。その結果、パイロトーシスを誘導した場合に抗腫瘍CTL活性が強く誘導されることを明らかにした。3)アポトーシス細胞とパイロトーシス細胞が細胞外に放出するメタボライトを比較し、パイロトーシスから選択的に放出されるメタボライトの一種が細菌感染などによるマクロファージのIL-1βの産生を阻害する作用を示すことを見出した。このメタボライトはパイロトーシスに特徴的なダイイングコードと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
我々は、独自のパイロトーシス誘導系を用い、shRNAライブラリースクリーニングでパイロトーシスのシグナル伝達因子(PYSTs)の候補を複数同定した。この内PYST1がカスパーゼ1と結合すること、PYST1の阻害剤がパイロトーシスを部分的に抑制したことなどから、この分子に焦点を絞って解析してきた。しかし、PYST1は細胞分裂にも必須の分子で、PYST1欠損細胞を作成することができない。パイロトーシスにおけるPYST1の重要性を示すために他の様々な方法を試みているが、現時点で決定的な証拠は得られていない。したがって、PYSTsの同定、解析という意味では、研究の進捗は乏しいと言わざるを得ない。一方、ガスダーミンD欠損細胞でのカスパーゼ1誘導細胞死の様態や分子機構の解析で大きな進捗があった。ガスダーミンDを不活化する蛋白を産生するウイルスの報告もあり、我々が発見した細胞死誘導経路はそのようなウイルスが感染した際のバックアップ細胞死誘導メカニズムになりうる。また、もともとガスダーミンDは発現していない細胞でも、この経路で細胞死が誘導される可能性が考えられる。生体内で腫瘍細胞にパイロトーシスを誘導すると、アポトーシスを誘導した場合より腫瘍免疫が強く誘導されるという発見は、がん治療において腫瘍細胞にどのような細胞死を誘導するのが最適かという問いに答える画期的な成果であると考えられる。本年度、パイロトーシスを誘導した場合により強く抗腫瘍CTL活性が誘導されることをみいだしたことで、上記の現象の背景となる細胞メカニズムの解明が大きく前進したと言える。また、パイロトーシス細胞のメタボローム解析で見出した新たなダイイングコードの発見も大きな進捗である。したがって、進捗状況は停滞している部分もあるが全体としては概ね順調に進んでいると判断した。
1)パイロトーシスの分子機構の解明:これまでPYST1がカスパーゼ1の下流で働いているという仮説に基づいて研究を行ってきたが、PYST1がカスパーゼ1の上流、すなわちインフラマソームの形成過程に関与している可能性も検討する。また、多くのPYSTsが細胞分裂関にも寄与する分子であったことから、細胞分裂とパイロトーシスの関係という観点からも解析を進める。2)Gasdermin D (GsdmD)非依存性カスパーゼ1依存性細胞死の役割の解析:筋委縮性側索硬化症や虚血性脳傷害のモデルでカスパーゼ1やBidの活性化が報告され、細胞死との関連が示唆されている。そこで、金沢大学医薬保健総合研究科神経分子標的学の堀修教授との共同研究で、神経細胞死を伴うマウス疾患モデルでカスパーゼ1-Bid経路の関与を検討する。3)がん病態におけるアポトーシスとパイロトーシスの比較:これまでに用いたがん治療モデルではほぼすべての腫瘍細胞が一度に細胞死を起こすため、細胞死誘導後の腫瘍内の非腫瘍細胞の応答を解析することは困難であった。そこで、現在、腫瘍細胞の一部にのみ細胞死を誘導し、周囲の生細胞の応答を解析しうる実験系の樹立を試みている。今後は、この実験系を完成させ、腫瘍細胞のアポトーシスやパイロトーシスががん微小環境に与える影響についてさらに研究を深める予定である。4)パイロトーシスとアポトーシスのダイイングコードの比較:これまでに、アポトーシス細胞とパイロトーシス細胞が細胞外に放出するメタボライトを比較し、それぞれの細胞死に特徴的な物質を複数同定した。昨年度、これらのメタボライトの一つが細胞内に感染した最近の増殖を抑制するとともに、インフラマソームの活性化を抑制する作用を示すことを見出した。本年度は、この現象のメカニズムの解明を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
ImmunoHorizons
巻: in press ページ: -
doi: 10.4049/immunohorizons.1700074
Ther Apher Dial
10.1111/1744-9987.12651
http://dimb.w3.kanazawa-u.ac.jp/sousetsuf/sousetsu13.htm
http://dimb.w3.kanazawa-u.ac.jp/ResThemef/apoptosis.html