本年度の主な研究実績は以下の3点である。 (1)ジエンおよびジエノフィルユニットを二つの環に含むカテナンの合成 水素結合サイトとして第二級アミド結合をもち、ジエン構造を有するマクロサイクルの存在下でジエノフィルとしてフマル酸誘導体を含むジアミンと、適度な長さを有するジ酸クロリドの環化反応を行うことでジエン構造とジエノフィル構造をそれぞれの環に含む[2]カテナンを合成した。ジ酸クロリドの構造には他の官能基の導入も可能であり、また本カテナンの合成法は非常に穏やかな反応条件下で進行するため、様々な官能基を有するカテナンを自在に合成する手法を確立した。 (2)分子間Diels-Alder反応によるカテナンポリマーの合成 ジエン構造およびジエノフィル構造を二つの環コンポーネントに含む[2]カテナンを溶融重合させることでカテナンユニットを全て環状構造で連結したポリカテナン状ポリマーを合成した。カテナンモノマーに組み込んだジエンとフマル酸誘導体のDiels-Alder反応は速やかに進行し、カテナンユニットを含むポリマーが簡便に得られることを確認した。この結果より、本研究の「協奏的環化反応による高次インターロックト化合物の合成」手法が、ポリカテナン合成に向けた方法論として適切であることを実証した。 (3)ジエン構造をもつインターロックト化合物の応用として、フラーレンをDiels-Alder反応によって環に導入したロタキサンを合成した。さらに、軸分子に亜鉛ポルフィリンを導入することによって環にフラーレン、軸にポルフィリンを導入したロタキサンを合成した。これらのロタキサン上においてポルフィリンからフラーレンへ空間を介した光誘起電子移動が観測され、インターロックト化合物が優れた電子移動システムを構築できることを示した。
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