発がんにおける酸素ラジカルの関与

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 01010078
• 研究機関: 国立がんセンター
• 研究代表者: 西村 すすむ 国立がんセンター研究所, 生物学部, 部長 (20076970)
• 研究分担者: 葛西 宏 国立がんセンター研究所, 生物学部, 室長 (40152615) ; 山本 順寛 東京大学, 工学部, 助手 (60134475) ; 越智 崇文 帝京大学, 薬学部, 講師 (40129987) ; 上野 芳夫 東京理科大学, 薬学部, 教授 (00084418) ; 長谷川 良平 名古屋市立大学, 医学部, 講師
• キーワード: 8ーヒドロキシデオキシグアニン / 酸素ラジカル / DNA修飾 / DNA修復 / エンドヌクレアーゼ / ペルオキシゾーム増生 / 化学発がん / 変異

研究概要

1.肝発がん性を示すアントラキノン系マイコトキシン、ルテオスカイリンをマウスに投与すると、肝や腎DNA中の8ーヒドロキシデオキシグアニン(8ーOHーdG)が増加することを認めた。このことはルテオスカイリンが酸素ラジカルを介してがん化に関与していることを示唆する。
2.ハムスター培養細胞に対して、アルキル過酸化物、tert-butyl-hydroperoxide(t-BuOOH)で処理すると、一本鎖DNA切断は処理後1時間で修復されるにもかかわらず、染色体異常の頻度は20時間以上も高く維持された。このことは染色体異常の誘発にDNAの1本鎖切断以外の反応が関与していることを示唆する。
3.脂質の酸化第一次生物質である脂質ヒドロペルオキシドが健康人血漿中に約3nM存在することを明らかにした。またユビキノールがビタミンEより優れた抗酸化剤であることを示した。
4.強い活性酸素消去剤である2ー0ーactadecylascorbic acid(CV-3611)が抗発がんプロモーション作用があることを、膀胱上皮細胞の凝集を指標とした短期検索法で明らかにした。
5.8ーOHーdGを特定の位置に含む二本鎖DNAを合成し、これを基質として用いることにより、大腸菌から8ーOHーdGの除去に特異的なエンドヌクレアーゼを検出し、且つ精製することに成功した。このエンドヌクレアーゼはこれまでに分離されたエンドヌクレアーゼと異っていた。このことは8ーOHーdGの生成が生物にとって有害であり、それを除去、修復する酵素が生物に存在することを示したもので意義深い。
6.放射線照射により、DNA中にin vitroで5ーホルミルデオキシウリジン(f^5du)が生成することを明らかにした。f^5duの生成には酸素ラジカルの関与が示唆され、突然変異の一つの原因である可能性がある。

研究成果

• [文献書誌] Kasai,H.,Nakayama,M.,Toda,N.,Yamaizumi,Z.,Oikawa,J.and Nishimura,S.: "Methylreductic acid and hydroxymethylreductic acid:oxygen radical-forming agents in heated starch" Muration Res.214. 159-164 (1989)
• [文献書誌] Kasai,H.,Iida,A.,Yamaizumi,Z.,Nishimura,S.and Tanooka,H.: "5-Formyldeoxyuridine: a new type of DNA damage induced by ionizing radiation and its mutagenicity to Salmonella strain TA102" Mutation Res.(1990)
• [文献書誌] Kasai.H.,Okada,Y.,Nishimura,S.,Rao,M.S.and Reddy,J.K.: "Formation of 8-hysroxydeoxyguanosine in liver DNA of rats following long-term exposure to a peroxisome proliferator" Cancer Res.49. 2603-2605 (1989)
• [文献書誌] Morimoto,K.,Sato,M.,Fukuoka,M.,Hasegawa,R.,Takahashi,T.,Tsuchiya,T.Tanaka,A.,Takahashi,A.and Hayashi,Y.: "Correlation between the DNA damage in urinary bladder epithelium and the urinary 2-phenyl-1,4-benzoquinone levels from F344 rats fed sodium O-phenylphenate in the rat" Carcinogenesis. 10. 1823-1827 (1989)
• [文献書誌] Ochi,T.: "Effects of iron chelators and glutathione depletion on the induction and repair of chromosomal aberrations by tert-butyl hydroperoxide in cultured Chinese hamster cells" Mutation Res.213. 243-248 (1989)
• [文献書誌] Shioya,M.,Wakabayashi,K.Yamashita,K.,Nagao,M.and Sugimura,T.: "Formation of 8-hydroxydeoxyguanosine in DNA treated with fecapentaene-12 and -14" Mutation.Res.225. 91-94 (1989)