研究概要 |
非特異性炎症性腸疾患(I.B.D.)である潰瘍性大腸炎(UC)およびクロ-ン病(CD)の病因、病態には腸内細菌叢が関与すると考えられる。実際、本症病変部直腸粘膜における細菌叢は、健常者粘膜に比して、総菌数、嫌気性菌数が増加し、偏性嫌気性菌群では、Bacteroides vulgatus,Clostriduum ramosum,B.fragilisの分離頻度が高い。菌体凝集反応にて、これら菌種に対する本症患者の免疫応答を検討すると、高率に高力価の抗体活性が血中に見いだされる。本研究では、これらの知見を基礎として、本症病変部粘膜で高率に分離される粘膜細菌叢構成菌に対する免疫応答の成立の本症の病態への関与を、対応菌体膜表面蛋白抗原を特定することにより検討を加えた。すなわち、Nーラウロイルサルコシンにて抽出、精製した菌体外膜蛋白のイムノブロット法による対応抗原蛋白を検討し、B.vulgatusでは、26K,34K,54K,86K dalton蛋白がIgG型抗体で認識され,このうち26KD蛋白は、IgA型抗体によっても本症で特異的に高頻度に認識されることを見いだした。しかし、B.fragilis外膜蛋白分画中には、本症で特異的な対応抗原蛋白は見いだされなかった。C.ramosumは外膜蛋白分画の精製が困難なことより、全菌体抽出蛋白分画について検討したが、対応抗原は同定し得ていない(O'Farrell二次元電気泳動による検討を必要としている)。一方,通性嫌気性菌群で最も高頻度に分離されるEscherichia coliの50KD外膜蛋白が、本症とくにCDで特異的に認識されていることがみいだされた。このB.vulgatusプ-ル,E.coliプ-ルの全菌体外膜蛋白を用いたELISAでは、CDでIgA型抗体について有意な高値が見いだされた。Mono Q、Superose12(FPLC)にて精製したB.vulgatus26KD蛋白、E.coli50KD蛋白を用いたELISAは、菌株により当該蛋白発現量、抗原性の差もみられ、その疾患特異性を結論するには、さらに多数菌株、多数例による慎重な検討が必要であると判断された。
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