当初の研究課題と方針は、生命科学・情報科学および環境科学を中心とする現代の先端的な科学技術の発展に関わる倫理的な問題を、広い視野で統一的に解明しようとするものであった。しかし現実の状況として、発足して間もない日本生命倫理学会の運営や、医学部の倫理委員会での活動に多くの時間と関心を集中しなければならなかったこともあって、結果的には生命科学技術の領域での研究に偏ることになった。これは、個人的な、あるいは小グル-プによる研究に必然的な限界であろう。 本研究の基本的な思想は、場面が違っても現代の科学技術に関わる倫理的な問題は共通の基底をもっている、と見るところから始まっている。数多の学会・研究会・ジンポジウムや多数の研究者との交流の結果、この思想は確証されつつある。今年度の中心的な研究および交流の場は、東京大学先端研セミナ-・STS懇談会・日本生命倫理学会の各種研究会・南山大学社会倫理研究所などであった。今後の継続的な研究が必要であるが、当面の成果は、諸領域の研究者・実務者の協同と組織の方向性を明らかにする上で多少の貢献ができたことである。 一般的に問題意識が鮮明であるのに、その研究と解明の展望が決して明るい見通しをもつことができないのは、問題の理論化のための方法論が薄弱なためである。本研究は、この方法論の確立のために何らかの具体的指針を提示することを最大の課題としてきている。研究報告書にみられるように、その成果としては不十分であるが、ある程度の提言はできたと思えるし、また今後の研究態勢がある程度まで整えられたことは期待されるべきであろう。諸領域に通底する大きな理念的な研究姿勢と、具体的な個別領域の問題にきめ細かく接していく姿勢との調和は、今後の問題として継続的に追求していく予定である。
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