近年石橋湛山研究は急速に進展しつつある。「多角化」「国際化」「論争化」といった学問的傾向を示している。以上のような傾向を踏まえつつ、初年度の研究を進めた結果、相当程度の成果を収めることができた。以下、研究方法、資料収集状況、論文作成過程、解明された内容について報告する。まず石橋湛山の小日本主義に関して、従来解明されていない1920年代の「軍備撤廃論」を研究し、論文としてまとめた。これは湛山の植民地放棄論、移民不要論などと一体化した自由主義・民主主義・平和主義的な外交思想を論証するために不可欠な研究であり、その意味で多大な学問的成果といえる。また1930年代から40年代前半期の「大東亜共栄圏構想」に関する湛山の否定と変革の論理を明らかにした。この論文の学問的意義は、湛山の小日本主義が政治的には後退を余儀なくされたものの、経済的見地からは連続性を示している旨を実証したことである。つまり湛山の「変節」を唱える一部の湛山研究者に対して、その非を論証する学問的成果を上げたと考えられる。研究方法としては、『石橋湛山全集』とそれに漏れている湛山の著作を、国会図書館や慶応義塾大学図書館、あるいは石橋湛山記念財団事務局の協力を得て収集した。同時に、石橋湛山関係者へのインタビュ-を実施した。とくに元財団事務局員で石橋湛山に精通した武田茂氏には論文内容に対する詳細な点検を依頼した。なお上記二論文を含めた従来の石橋湛山研究論文10篇を今回博士号学位請求論文として慶応義塾大学に提出し、本年3月、学位授与の決定が下った。これは石橋湛山研究としては我が国で最初の学位であることを付け加えておきたい。
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