わが国の近現代史研究において欠落している領域の一つが「小日本主義」研究である。その意味で本研究は石橋湛山の外交思想に限定しながらも、この分野の先駆的位置を占めるものである。 初年度の平成1年度では、石橋湛山の戦前期言論人時代を研究対象とし、従来未開拓の「軍備撤廃論」および「大東亜共栄圏構想批判論」を脱稿して、当初の研究目標を達成した。そこで1989年10月、博士論文「石橋湛山研究小日本主義者の国際認識」を完成、1990年3月に慶応義塾大学より法学博士号を授与された。また同年6月には同論文が東洋経済新報より単行本として出版されるに至った。なおこの研究成果によって、同年12月、石橋湛山記念財団主宰の石橋湛山賞を受賞した。 以上の研究成果により、二年目の本年度(平成2年度)では、戦後期の政治家時代へと移行し、公職追放解除後の1950年代における石橋湛山の外交思想に関する研究を行なった。とりわけ石橋湛山の御子息湛一氏より未公開の石橋湛山資料を寄託され、検索できたことは研究上きわめて大きな成果となった。またすでに国会図書館に寄託した石橋湛山関係文書を調査、整理できたことも有意義であった。したがって研究費補助金は主としてこれらのために充当した。しかし新設大学に転任したため、研究施設の不十分さなどが影響し、結果としては両論文「小日本主義の現代的意義」および「いまだから甦る石橋湛山の視角」に止まった。今後も石橋湛山の対日講和条約・日米安保条約に関する見解、「日中米ソ平和同盟構想」に関する見解の研究を前記の資料を用いつつ明にする予定である。
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