研究概要 |
今までに得られた調査結果は,人家の中に住みつくクモは,そうでないクモに比べ,短日條件下でも幼生の発育が著るしく遅延しないことを,明らかにしてきた。 そこで本年度は,人家に中に住みつくシモングモと,人家の中には住みつかないキクズキコモリグモについて,幼生の発育と光周期との関係を調査した。シモングモの幼生発育は,自然温度一表日條件下では早く,100ー120日で成体となったが,自然温度一短日條件下では160ー180日もかかって成体となった。つまり,短日條件下では発育遅延が起こった。このことは,今までに得られた家住性の他のクモの結果とは相違する。 人家の中に住みつかないキクズキコモリグモの場合には,25℃ー表日條件下および25℃ー短日條件下での飼育とも,幼生の発育はほとんど同じであった。このことも,今までに得られた人家の中に住みつかない他のクモの結果と相違する。したがって,先に述べた人家の中に住みつくクモは光周期に対する反応が鈍く,人家の中に住みつかないクモは短日條件下に対して敏感である,という假説はことによると再検討しなければならない。しかし,シモングモの調査結果は主として冬期に行なわれたものであるし,キクズキコモリグモは年2回以上世代を操り返すクモである点からすると,必ずしも上記の假説が全面的に否定されるようには思えない。シモングモが短日條件下で発育遅延を示したといっても,成体となった時期は繁殖を開始するのに好適な春に丁度一致しているし,キクズキコモリグモのような夛化性のクモは,光周期に反応しない方が自然條件下での繁殖にはむしろ有利なことになるかも知れないからである。研究結界を綜合してみると,これらの点は,これから行なわれるであろうクモ類の生活史研究に対し,一つの面白い研究の糸口を与えるに違いないと思われる。
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