研究概要 |
本研究では、非常に高いネール温度を示しGMR, TMR効果を示す多層膜中の反強磁性材料として注目されているAuCu-I型Mn系合金の基礎物性と電子状態を実験的に調べることを目的としている。 本年度は等比組成MnPdおよびMnNi合金を作製し、磁化、電気抵抗、低温比熱測定を行い、ネール温度および電子比熱係数の組成依存性を詳細に調べた。MnPd合金については全ての試料においてネール温度以下で電気抵抗率が増加し、ギャップ型反強磁性体特有のハンプがみられた。MnNi合金はネール温度直下で高温相であるCsCl型構造に相変態を起こすので、その振舞いは明確ではなかったが55%Niの組成では変態温度とネール温度が逆転し、MnNiにおいてもギャップ型反強磁性体特有のハンプが観測された。低温比熱測定から得られる電子比熱係数の組成依存性においてはどちらの合金系も等比組成近傍で1mJ/mol-K^2以下の小さな値を示し、フェルミ面での電子の状態密度が非常に低いことを示唆する結果が得られた。また、MnPd合金のネール温度の組成依存性は等比組成よりむしろ53%Pdで最も高い値を持つことが明らかになった。この振舞いは、以前に研究を行ったMnPt系とは異なる傾向であるが、多重散乱理論を基に得られる交換相互作用J_0の組成依存性でも実験結果を示唆する結果が得られている。以上の結果は日本物理学会で発表された。 さらに、本年度はAuCu-I型結晶構造を有するMnIr系合金の試料も作製し、種々の測定を行った。MnIr系合金においては室温〜1300Kの広い温度領域で電気抵抗測定を行うことにより、初めてネール温度が明確に観測された。45%Irの組成でネール温度は1117KとAuCu-I型Mn系合金のなかで最も高い。また、MnPd, MnPtおよびMnNi系合金と同様にネール温度以下で電気抵抗率にハンプが見られた。以上の結果から、MnIr系合金においてもバンド構造においてフェルミ面近傍に擬ギャップを有することが示唆される。今後、この点を明らかにするために低温比熱測定、バンド計算等を行う予定である。なお、MnIr合金のネール温度の組成依存性に関する研究結果は日本金属学会で発表された。
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