研究概要 |
植物の繁殖投資と資源分配機構の解明は、植物の種の進化生態学的位置と進化機構を解明する上で極めて重要である。本研究では温帯林林床の代表的な常緑多年草であるクツキソウ(Pachysandra terminalis)、オウレン(Coptis japonica)の2種と、落葉性多年草カタクリ(Erythronium japonicum)とギョウジャニンニク(Allium victorialis ssp.platyphyllum)の2種、並びに人里植物のノビル(Allium grayi)の季節消長(フェノロジー)、光合成速度の季節変化と併せてN資源の分配機構、繁殖投資に関して詳細に解析した。 1.常緑多年草(半低木)のフッキソウは3年分の地上部を保有するが、その新旧交代は2.5年の間にゆっくりと進行する。全N量は成長の活発な春に高く、夏に低下するという消長を繰り返す。水容性N、F-1タンパクも同様な動態を示す。この植物のNプールは、林床が暗くなる夏に葉、茎、根ともにアスパラギンの形態で大量に貯えられることが明らかになった。 2.常緑多年草のオウレンでは、地上部の新旧交代は1年間で完了する。葉では全N、水容性N共に早春と冬に高く、根茎では転流によって夏期に大量に貯えられる。遊離アミノ酸は葉、茎、根茎ともに圧倒的にアスパラギンn型で大量プールされる。 3.春植物のカタクリ、半陰地植物のギョウジャニンニクでは、地上部展開直後の4〜5月には鱗茎中の貯臓物資は消費しつくされ、全N,水,容性N、遊離アミノ酸ともに著しく減少する。早春カタクリ鱗茎中にはグルタミンが多く、その逆に夏にはアルギニンが多い。ショウジャニンニクでは、冬にアスパラギンが多く、夏にはアンモニア態Nの形でプールされる。 4.ノビルのC、Nの動態は、上述した林床植物とは対照的である。特に鱗茎内のN動態は他の植物とは極めて異なった動きを示した。
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