(1)細胞標本作成法の改良。心臓ペ-スメ-カ-細胞はきわめて豊富な結合組織によって囲まれ、細胞の単離に工夫が必要であった。いろいろな酵素や処理法について比較検討したが、次のような手順で実験に充分使用できる細胞を得ることが出来た。まず、人工呼吸下に開胸し、大動脈にカニュ-レを挿入し、正常塩溶液による潅流を開始し、その状態で心臓を摘出し、潅流装置に固定する。Caを含まない塩溶液約150mlを潅流後、40mg/300mlのコラゲナ-ゼ液によって20分間処理、続いて約5分間15mg/150mlのプロテア-ゼ処理を行う。洞房結節を切り出し、これを細切し、15mg/25mlのコラゲナ-ゼによって更に20分の処理をし、高K、低Cl、無Ca塩溶液中で細胞を分離する。得られる細胞はかなりの比率で正常な細長い形を保ち、これにパッチクランプ法を適用した。(2)イオン電流の解析。過分極によって活性化するイオン電流の本体について明かにする目的で調べた結果、この電流はNaイオンとKイオンによって運ばれ、Clイオンは電流を運んでいないこと、Clイオンを外液から取り除くと、電流は消失するが、これはClイオンによるチャネルの活性化を仮定しないと説明できないこと、Kイオンを外液から取り除くと、やはりチャネルのコンダクタンスは完全に消失した。いろいろな濃度でのチャネル活性化のキネチックスを調べたが、明かな変化を認めることはできなかった。チャネルは外液のCsイオンやRbイオンによってブロックされるが、内向き電流についていろいろな電位で比較したが、明かな電位依存性を認めることはできなかった。細胞内のKイオンをCsイオンによって置き換えても、内向き電流は全く影響を受けなかった。パッチクランプ法のoutsideーoutの方法でこの電流を記録できたが、単一チャネルに基づくと思われるようなノイズを検出することは出来なかった。
|