研究概要 |
コレステロール胆石生成の核心の一つである,コレステロール過飽和胆汁生成のメカニズムを明らかにするために,昨年度までに1)微量の肝組織を用いた律速酵素活性測定法の開発,2)胆石症例における律速酵素活性の測定,3)胆石症例における肝組織中コレステロール,胆汁酸濃度の測定を行ってきた.その結果,日本人の非肥満,血清脂質正常のコレステロール胆石患者では,肝胆汁のコレステロール飽和度が対照群より有意に高いにもかかわらず,肝HMG-CoA reductase, cholesterol 7α-hydroxylaseおよび7α-hydroxy-4-cholesten-3-one 12α-hydroxylaseの3つの酵素活性には有意な差を認めなかった.また,肝組織中のコレステロール濃度も,胆石,非胆石両群間において有意な差は認められなかった.しかし肝組織中総胆汁酸濃度は有意に上昇し,分画をみるとCDCA,DCA,UDCA が増加していた.さらに,肝組織中総胆汁酸濃度と肝組織中総コレステロール濃度の間には,有意な正の相関関係を認めた.以上のように,本研究ではこれまでのところ,何らかの理由により肝組織中胆汁酸濃度が増加していることが,コレステロールに対する胆汁酸生成を相対的に抑制し,コレステロール過飽和胆汁を引き起こしている可能性があるというデータが得られている. 今後さらに,ヒトにおいてコレステロール,胆汁酸生成系の調節異常を明らかにしていく上で,肝組織を得ることには制限がある.そこで本年度は,血清を用いて両酵素活性を推定する方法の開発を行った.HMG-CoA reductaseおよびcholesterol 7α-hydroxylaseの生成物は,それぞれmevalonateと7α-hydroxycholesterolであるが,これらはいずれも血清中に存在する.我々は,先に開発した酵素活性測定法を応用して,高分解能ガスクロマトグラフィー質量分析計により血清中の両物質を同時に定量する方法を開発した.またそれぞれ肝における酵素活性との比較を行い,何れについても有意な正の相関関係が認められた.したがって今後は肝における両律速酵素活性を血清を用いて推定することが可能となり,本法を応用してさらに研究を続行したいと考えている.
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