本研究に用いられるステントは経皮的挿入の制約上、ワイヤ-径0.018インチ、6ベント、1cm長のものを用いた。予備実験の結果、このステントが持ち得る拡張力は血管径の50%を上限とした場合には、単位面積当り40g重となることが判明した。 一方、雑種成犬の動脈解離片の溶着に必要とされる温度と溶着力を求める温水パイプによるモデル実験においては、加重が50g重、加温温度が65度の時点で加温時間が10分を越えると65g重以上を示した。 以上の基礎実験を踏まえて、人体等価寒天ファントム中の表面から4cmの距離を離して、雑種成犬の大動脈に見立てた直径1cmビニ-ルチュ-ブ中に37度の微温湯を循環させ、その中に外膜と内膜を解離させた動脈片を挿入してステントで圧迫しながら誘導加温を行い、経時的な温度上昇の測定と加温時間による組織片の溶着力の程度を観察した。 この結果、10分以上の加温で平均23g重の溶着力を得た。この値はステントの圧迫力と併せて解離の進行を防止するのに十分であり、動脈解離の経皮経大腿動脈的治療に対しての可能性が明らかにされた。 更に、上記と同一の実験条件下で得られた組織片をH&E染色によって組織学的に観察した。この結果、非ステント部には熱による変化がみられないものの、溶着部では内皮細胞の変性と融解が認められ、組織学的にもいわゆる"生体糊"としての溶着が証明された。
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