本年度(平成2年度)には、(1)眼球運動測定・視覚刺激呈示装置の装置面と、(2)健常成人での基礎観察・実験の両面で、当初の計画通りの進展があった。さらにその過程での予定外だが重要な副産物として、(3)視覚的注意のシフトに関する新しい知見があった。以下に順を追って述べる。 (1)眼球運動測定・視覚刺激呈示用装置ー前者については、EOG用電極・アンプ・記録用機器一式がすでに作動状態にあり(日本光電製)、さらにサッケ-ド眼球運動の反応潜時を測定する目的のための、NECPCとのインタ-フェ-スが、ソフト・ハ-ドともにほぼ実用化の段階にある。視覚刺激呈示装置については、COMMODORE社AMIGA2000・3000両機種と液晶同期めがねを用い、(ワイヤレス化が遅れている点を除いて)3次元運動パタン呈示用としてすでに作動状態にあり、次項に述べるような実験成果を蓄積しつつある。 (2)健常成人での基礎観察・実験ー以前の心理物理学的研究から引き続いて、立体視や運動視、表面の知覚などにおける単眼・両眼過程の相互作用について、新しい発見があり、学会発表の予定である。さらに、本研究に主テ-マに直接関連する「図地分凝ー仮現運動ー反転ディスプレイ」についても、これを最適化し、成人での現象学的観察によって裏付けるとともに、両眼視差などの3次元手掛りが決定的役割を持つ事実を新たに見出し、新生児・乳児研究への応用の幅を広げた。さらに少数だが6カ月児による予備実験で、実現可能との感触を得た。 (3)視覚的注意のシフトに関する新知見ー視覚的注意のシフトにより、事象の生起感覚が主観的に生じたりする新現象を見出し、現在精密な心理物理実験により追究中である(生理学研究所・彦坂研究室との共同研究)。新生児・乳児への応用を期待できる。
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