1)設備・測定法について:CRT上に呈示する視覚刺激と乳児の眼球運動と同期性を保ったまま記録する点に技術的困難があり、実用化にてまどった。しかし予備的な試みの結果、別々のカメラで捉えたビデオ信号をビデオミキサ-で重ねてオンラインモニタ-するとともに、テ-プに記録する方法で克服できることがわかった。また被験者の頭が計測中に動いても、眼球運動測定用の小型(近接焦点距離)監視カメラをマニュアル式の方向調節台に乗せ、実験者が画面上でモニタ-しながら常時カメラの方向を調整することで、眼球運動(サッケ-ド)の方向および潜時の測定に問題は生じないことを確認した。この方法はそのまま、成人における前庭動眼反射・運動性眼震の順応・学習実験にも応用できる。 2)具体的な研究の進展:成人による心理物理学的実験によって、注意の分布に依存した運動錯視現象("line motion"イル-ジョン)を見いだしこれを空間的注意の測定法として用いる実験と、サッケ-ドの反応潜時測定にも応用する実験を、現在継続中である。この方法の時空間的精度はきわめて高く、また随意性と不随意性、感覚性と運動性、視覚性と聴覚性(あるいは体性感覚性)など、身体運動図式の全体像を捉えるきわめて有力なパラダイムであることを実験的に示すことができた。これまでのところ主として健常成人の被験者だけによる研究で、このため乳児を被験者とする実験は出遅れているが、発達研究にもただちに応用のきく新しい方法の創出であり、今後の研究へのインパクトは大きいと思われる。サッケ-ド誘発用の「図ー地運動」視覚刺激についてはすでに開発済みであり、少なくとも6カ月児では反応することが予備観察で確認できている。新生児・乳幼児による実験は、被験児が集まらないせいもあって難航していたが、大学近辺の保育園・幼稚園や民間の幼児教育機関に協力を求めた結果、ようやく縦横断的研究が可能な段階に達した。
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