本研究の成果は、概要以下の通りである。 (1)新生児・乳児におけるサッケード誘発用に「図-地分凝・反転運動ディスプレイ」に開発した(Shimojo(1992)のFig.8)。これを用いた行動実験の結果、(被験児数がまだ不十分ではあるが)少なくとも6-8カ月児では図地知覚に応じた方向で頭部・眼球の運動反応を示すことがわかった。これにより、新生児・乳児の不随意眼球運動の発達を視知覚発達との密接な関連で捉える研究方向に、新たな道をひらいた。 (2)新生児・乳児における視力・ハイパー視力・両眼視・空間視機能についての研究を概観し、単眼視・両眼視の発達を末梢・中枢神経系の成熟と関連づけて検討した(Shimojo 1992)。 (3)乳児における両眼立体視の成立機序について、入力眼に選択的な皮質表現の成立を前提とするという仮説をたて、1-10カ月児の心理物理実験によってこれを支持する結果を得た。さらにこの成果を、最新の成人両眼立体視の研究と比較し、それらを統合的に理解する、両眼視機能の新しい見方を提案した(Shimojo 1993)。 (4)4歳齢における自己身体を含む空間認知について、触認知および運動再生における鏡映反転現象から接近した結果、健常および先天盲の成人と本質的には違わない結果を得た(Nagata&Simojo 1992)。さらに、約1歳齢における、乳児と養育者の間のいわゆる「協調注意」や「社会的レファランス」についても、実験的検討を継続中である。 (5)健常成人における視空間的注意の心理物理実験により、刺激依存性あるいは自発的注意による視野内に情報処理効率の勾配が生じ、それによってある種の運動錯視が生じることを見出した(Hikosaka et al.)。
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