研究概要 |
ニトロシル配位子をもつ各種(η^3ーアリル)8族遷移金属錯体の簡便合成法の開発,これらの錯体の構造と物性および化学的機能との関係についての系統的理解,これらの錯体の化学的特性を利用する新しい有機反応の開発などを目的として研究を行った。本年度は鉄錯体を中心に研究を進め,次のような成果を得た: 1.ヨ-ドメタンの存在下,1,3ージエンとBu_4N^+〔Fe(CO)_3NO〕^-(TBAF)とを反応させると(η^3ー1ーアセトニルアリル)Fe(CO)_2NO錯体1__〜,また塩化アセチルの存在下,アルケニルオキシランとTBAFとを反応させると(η^3ー1ーアセトキシアリル)Fe(CO)_2NO錯体2__〜が高収率で合成できることを見い出した。さらに,α,βー不飽和カルボニル化合物およびαーハロカルボニ化合物から,(η^3ー1ートリメチルシロキシアリル)Fe(CO)_2NO錯体2__〜および(η^3ー2ートリメチルシロキシアリル)Fe(CO)_2NO錯体4__〜をそれぞれ高収率で合成する方法を確立した。 2.錯体1__〜,2__〜,3__〜,4__〜はNaCH(CO_2Me)_2のような炭素求核反応剤,HC〓CCH_2Br のような炭素求電子反応剤のいずれともアリル配位子の立体障害の小さい位置で位置選択的に反応し,それぞれ相当する多官能性化合物を効率よく与えることを見い出した。ことに,炭素求電子反応剤との反応では,錯体のCO配位子の一つをP(OPh)_3に変えると,反応効率が向上することを見い出した。 3.(η^3ーアリル)Fe(CO)(L)NO錯体(L:CO,PR_3,P(OR)_3)のIRスペクトルおよびNMRスペクトルの温度変化を測定し,これらの錯体における各配位子の優先立体配置を明らかにした。 4.錯体1__〜は1,3ージェンの1,4ー官能基化の中間体,錯体3__〜はβーアシルカルボカチオンおよびカルボアニオン等価体,錯体4__〜はαーアシルカルボカチオンおよびカルボアニオン等価体としての化学的機能をもち,これらの錯体はいずれも合成化学的に利用価値が高いことが明らかになってきた。
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