研究概要 |
ニトロシル配位子をもつ各種(η^3ーアリル)8族遷移金属錯体の簡便合成法の開発,これらの錯体の構造と物性および化学的機能との関係,化学的特性を利用する新しい有機合成反応の開発などを目的として研究を行った。本年度も昨年度に引き続き鉄錯体を中心に研究を進め,次のような成果を得た。 1.(η^3ーアリル)Fe(CO)_2NO錯体1,(η^3ー1ートリメチルシロキシアリル)Fe(CO_2NO錯体2,(η^32ートリメチルシロキシアリル)Fe(CO)_2NO錯体3,(η^3ー1ーアシルメチルアリル)Fe(CO)_2NO錯体4,した。 2.錯体1,2,3,4,5は炭素求電子反応剤,炭素求核反応剤のいずれともアリル配位子の立体障害の小さい位置で高選択的に反応し,多様な多官能性化合物を与えることを明らかにした。 3.錯体1,2,3,4のアリル配位子はα,βー不飽和カルボニル化合物に共役付加し,δ,εー不飽和ケトン,1,5ー,1,6ー,1,7ージケトンなどの多官能性化合物を高選択的に与えることを明らかにした。 4.錯体2,3と炭素求電子反応剤および炭素求核反応剤との反応について,その立体化学的反応経路を明らかにした。この研究において,炭素求電子反応剤との反応では反応剤がまず錯体の鉄原子に酸化付加し,ついで反応剤とアリル配位子が還元脱離すること,一方,炭素求核反応剤との反応では反応剤が錯体のアリル配位子を背面から直接攻撃することを明らかにした。 5.(η^3ーアリル)Fe(CO)(L)NO(L:CO,PR_3,P(OR)_3)錯体の構造が温度により変化することを明らかにした。 6.以上のアリル鉄錯体は,アリルカチオンおよびアリルアニオン,αーアシルカルボカチオンおよびカルボアニオン,βーアシルカルボカチオンおよびカルボアニオン等価体として機能し,多様な有機合成反応に利用できる合成化学的に有用な中間体であることを多くの例で示した。
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