研究概要 |
オナジショウジョウバエ(Drosophila simulans)において,細胞質因子(Cytoplasmic Grandsonless;CGS)を持つ雌と標準野生型系統Rakから生じたCGSF_1雄は,F_2世代において性比(♂/Total)を約0.07と大きく歪ませる.この細胞質因子を受け取った雄の生殖細胞系列の精子形成過程に働き,性比の歪みの直接的原因としてY精子の特異的な減少を惹起する.これまで他の生物種において,同様の報告はない.生殖系列に特異的に機能する遺伝子の機構を解明する上においても重要な要素を含んでいると考えられる. 大別して3つの研究を並行させて行った. 1)細胞質因子(CGS因子)の遺伝学的研究.細胞質因子の母性遺伝様式と世代間の消長を明らかにした.細胞質因子の遺伝は不確定であり,次世代の雌個体のうち0から15%は細胞質因子を保有しない.また,細胞質因子のagingの効果は観察されなかった. 2)精子形成過程の細胞組織学的解析.CGSF_1雄の精子形成過程,特に光学顕微鏡で減数分裂過程を,電子顕微鏡で精子の成熟過程を詳細に観察した.減数分裂は,Y染色体が減数第1と第2分裂で,赤道板中央にブリッヂを形成する頻度が高いこと.また成熟過程では,Y染色体を含む核において特異的に2から4核細胞が形成されているらしいことを発見した.これら2つの知見に関する因果関係についてはこれからの研究が必要である. 3)細胞質因子に抵抗性を示すY染色体の遺伝学的研究.世界的規模で収集されたオナジショウジョウバエの野生型系統を用いて,この細胞質因子に抵抗性を示す系統を探索した.性比がほぼ正常に回復する強い抵抗性を示す系統,中間の性比を示す抵抗性を示す系統を発見した.それらの地理的分布の詳細を解析中である.
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