研究概要 |
オナジショウジョウバエの自然集団から単離された性比が歪む系統の遺伝学的,細胞遺伝学的研究を行った.当初この性比の系統はcytoplasmic grandsonless(CGS)と呼ばれ細胞質遺伝を示すと報告されたため,細胞質因子の詳細な検討を行った.しかしながら,抗生物質,加齢効果,ミトコンドリア,細胞質移植と細胞質RNA等あらゆる可能性を実験的に検討したが,細胞質因子である可能性は否定された.しかし遺伝学的な解析から,それはX染色体上の遺伝子で,遺伝子座は約30に位置し,キイロショウジョウバエの近縁種ではこれまでに報告の例がない新しい突然変異体である事が明らかになった.遺伝学的性質からこの性比の突然変異体をpaternal sonless(psl)と呼び,おもに細胞遺伝学的解析を行った.psl雄の精子形成過程でY精子が特異的に減少する.それはY精子の精子束からの特異的な排除が原因である.なぜY精子は精子束から排除されるのか,またY染色体を持たない雄が性比の雄になぜ多いのか等について光学顕微鏡と電子顕微鏡による調査を行った.その結果,減数分裂時,特に減数第2分裂においてY染色体間の高頻度なブリッヂ形成,成熟過程における2核あるいはそれ以上の多核細胞や多核精子が観察された.これら多核細胞では細胞内小器官等も核の数に対応しているし,終期の細胞質分離が完了しない細胞が数多くみられた.それらには共通して蛍光色素で濃染するYクロマチンが観察された.これらの結果から,psl雄では減数分裂時にY染色体間でクロマチンブリッジが形成され染色体の分配が滞り,ほとんどの細胞では細胞質分離が完了しないまま精子の成熟過程に入ると考えられる.異常な精子は成熟過程で排除され,また受精能力の欠如から,Y精子やY染色体の消失という結果をもたらす事になる.さらに国内で発見されたpslと遺伝学的性質が同様な突然変異体をアフリカの集団等からも発見した.
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