研究概要 |
CGSによる性比の歪みは細胞質遺伝様式を示すと報告されていた.他の生物で同様な報告がないことからこの細胞質因子の同定とその単離を重要な研究課題と考え下記の研究を行った. 1)細胞内微生物:微生物感染の可能性を,抗生物質とagingの性比への効果により調べた.テトラサイクリンは2世代にわたっても効果がなく,agingの効果も25日間にわたる性比の歪みを求めることで調査したが,日令に相関した性比の歪みの変動は観察されなかった.CGS因子が微生物である可能性は低いと判断できる.2)ミトコンドリアDNAの制限酵素断片の比較:D.simulansでは,ミトコンドリアDNAの地理的変異が知られている.細胞質遺伝因子の大半はミトコンドリアが関係していることから,CGS因子とミトコンドリアDNAの変異との関係を調べるためCGS,標準野生型,アフリカの系統等でのミトコンドリアDNAを14種類の制限酵素で調べたが,差は発見できなかった.3)卵の紫外線感受性:細胞質に存在する遺伝因子としては他にRNAの可能性もあることから,発生後1時間から1時間半の初期胚の後極(生殖細胞形成部位)に紫外線照射し,CGS因子の紫外線に対する感受性を調べた.UV照射による性比の回復は観察されず,CGC因子とRNAの関連はないと考えられる.4)細胞質の移植実験:生化学的な細胞質因子の確認と単離を目的にmicroーinjectionによる細胞質移植を試みた.CGS因子を持つ系統をdonorに,標準野生型系統をrecipientとして,卵の細胞質を移植した.総数370の卵への移植の結果,成虫雄7匹と雌4匹を得た.それら全てがCGS効果を示さなかった. 以上,CGS因子は従来知られている細胞質因子とは異質な性質を持つものであろうと推測される.
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