本年度は、野外地質調査と石灰岩・化石試料の採集および採集試料の処理に研究の重点を置いた。山口県美祢郡秋芳町秋吉台のセメント鉱山(住友セメント鉱山KK南台採石場)内に分布する、前期〜中期石炭紀の生物礁フレ-ムワ-ク石灰岩を対象に延べ約1ケ月の野外調査を行ない多くの新知見(フレ-ムワ-クを構築する化石群の産状やフレ-ムワ-クの時空的分布など)を得た。また、極めて重要な大・小の石灰岩・化石試料を大量に採集した。これらの採集試料は石材工場や研究室で処理し、大型研磨石板や薄片に加工したが、現在ようやく処理を終えた段階であり、作製した試料の詳しい検討は平成3年度に行う予定である。 現時点で得られている新知見として下記の諸点が挙げられる。 1).中部石炭紀の生物礁フレ-ムワ-クは構築化石群の種類と組み合わせ、その成長形態から大きく5つに分帯できる。 2).フレ-ムワ-クの外洋側は四放サンゴ類を主体とする化石群から構成され、礁湖側は石灰藻類を中心とする化石群から構成される。 3).ケ-テテス類はその成長形態を変えることで環境に適応し、フレ-ムワ-クの外洋側ー礁湖側のすべての部分に普遍的に分布する。 4).フレ-ムワ-クを構築する化石の優占度は時代とともに変化する。すなはち、前期〜中期石炭紀にかけて、四放サンゴ類→石灰藻類→ケ-テテス類と優占化石が変化する。 5).前期〜中期石炭紀にかけて、海退に伴う少なくとも3つの大きな堆積不連続がある。「秋吉生物礁複合体」はこの時期に部分的に陸化し、このことがその後の生物礁の形態や、化石群や石灰質堆積物の分布を大きく規定している。
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