1.本研究は戦前期(大正・昭和期)における農地市場を、村落の「領域」によって分断された「断片的な土地市場Fragmented Land Maket」として再構成することを研究目的としている。本年度においては、こうした断片的土地市場論において不可欠である以下の2つの作業を行った。その第一は、様々な地方における実際の土地移動(売買および貸借)と価格(小作料)がどの様な「領域」で、また如何なるレヴェルで行われていたかを確定するための統計的資料の収集であり、第二に断片的土地市場論と対比される一般的な市場論の理論的な検討である。 2.資料収集としては、京都府立資料館所蔵の戦前期京都府資料・立命館大学図書所蔵の兵庫県資料・香川県県庁文書・宮城県県庁文書などを実地に検索し、統計的整理に耐えるものを収集した。京都・兵庫および富山県については資料収集に成功し統計的整理を行っている。他方香川県・宮城県は妥当なものが存在しなかった。収集資料からは、小作争議を媒介として得られる情報として、都市部と農村部との土地移動=領域と価格に差異がある点、また小作料などの領域性と小作料決定の空間的制限性などが予想されている。今後もこうした資料収料集という第1次作業が継続されなければ確定的な結論が出せる段階ではない。 3.理論的な検討は本報告にある4つの論文において、断片的市場理論形成のための基礎作業リカ-ド・マルクス・ワルラス・メンガ-・アリストテレスなどにおける市場概念を検討するなかで行った(第2ー4論文)。また実際の戦前期農民における商品としての土地についての「常識」について検討を加えた(第1論文)。結論的に言えば、市場が成立するためには稀少性という概念が売買当事者相互に形成される必要があり、こうした相互性は労働力とともに土地という特殊な商品においては著しい「制度」性(正確には国家の問題)を帯びることを確認した。
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