研究概要 |
麻薬であるメペリジンの不法合成の際生じたMPTPが,ヒトでパ-キンソニズムを発生させることが知られて以来,自然界に存在する物質や,脳内内存性物質がパ-キンソニズムを発症させるのではないかとの仮説に基いて,各種の研究を行なった。その代表的物質であるテトラヒドロイソキノリン(TIQ)を20頭のリスザルに最長104日間皮下投与した。 その結果,投与したサルすべてに,パ-キンソニズムに類似する症状の発現をみた。ヒトパ-キンソン病治療薬であるLーDOPAを投与したところ,TIQ投与サルでの症状は,劇的に改善した。またチロシン水酸化酵素,テトラヒドロビオプテリン,ド-パミンなどの脳内濃度を測定した結果,TIQ投与サルの線条体で,コントロ-ルに比して,有意な減少をみた。現在当面している問題点は,この様な変化を裏付けるための黒質神経細胞の死を見い出せないことである。老令のサルを用いて検討が必要である。 また,さらにin vitroでより強いド-パミン細胞に対する毒性を有するNーメチルーTIQを,2頭の老年サルに100日間投与したが,黒質神経細胞死を見い出すに至っていない。in vitroでの結果との違いを検出するためには,MPTPでみられたと同様の,神経終末でのTIQ,NーメチルーTIQなどの再取り込み機構の存在を証明しなければならない。この機構を通して,少量の物質でも,黒質神経細胞死に至らしめる事が予想されるからである。
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