研究概要 |
染色体異常生成に関する線量効果関係は明確なものであるが、かなり個体差があるとも言われている。今回は被曝歴を有する人の末梢血リンパ球に放射線を照射した場合と、被曝歴のないリンパ球に照射した場合について比較し、各々の染色体型染色体異常生成に関する線量効果関係に差が生じるかどうかにつき調べることを目的とした。 【方法】:放射線治療前および治療終了後、種々な時間を経過した時点で静脈血を採取し、小プラスチック試験管に分注した後に ^<60>Coーγ線により、0.05,0.1,0.2,0.3,0.5,1.0,2.0,3.0,4.0Gyの照射を行った。線量率は0.4Gy/分であった。照射した血液は直ちに37℃にてPHA添加による48時間全血培養を施行した。培養開始後24時間目にコルセミドを添加した。標本作成は通常の方法に従った。分析の対象とした染色体異常はdicentricsとringsであり、観察細胞数は100個から600個であった。 【結果】:被曝歴のある人の場合、リンパ球染色体異常頻度はin vitroの照射をする前の状態ですでに非被曝のコントロ-ルのそれに比較し当然高いが、その程度は被曝線量、被曝容積、被曝してからの経過期間の長さなどにより異なる。この状態のリンパ球に改めて種々の線量のin vitro照射を加え、得られた染色体異常頻度から照射前の異常頻度を差し引いて、その線量効果関係についてみてみると、非被曝者の血液を用いて得られた線量効果関係に比較し、低線量域では染色体異常頻度は低下する傾向が認められ放射線ホルミシスによる可能性を否定しえなかった。一方、中高線量域では非被曝者のリンパ球を用いた場合よりやや増加する傾向が窺われた。さらにこの中高線量域における染色体異常頻度の増加傾向は最被の放射線被曝からの経過期間とも関連し、その期が長くなるにつれて消失していく可能性が示唆された。
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