研究概要 |
近年,神経成長因子(NGF)の抗痴呆薬としての可能性や、神経再生に果す役割が期待されてきている。我々は,一過性の脳虚血後,数日たって海馬細胞が選択的に脱落壊死をおこす「遅発性神経細胞壊死」に対してNGFの脳室内投与(砂ネズミ)が劇的な予防効果を示すことを見出した。これは,NGFが虚血後の神経修復作用を有しているためと推定されるが,このことを明らかにするために,1)脳各部位でのNGF量の経時的変動の測定を行った。すなわち,砂ネズミの両側頚動脈5分間閉塞モデルにおいて,海馬でのNGF量は2日後に減少し,7日後に元に戻った。この結果は,海馬の遅発性壊死がNGF量と密接に関連していることを示唆するものであった。さらに,皮質及びSeptal areaでは,NGF量は減少しないことを確認した。2)次いでゴルジ染色による脳各部位の形態学的変化を観察したが,遅発性壊死においてbasal dendrite,apical dendriteは共に,3時間後より変性を開始した。NGFを投与することによって、この形態学的変性は抑制された。3)遅発性神経細胞壊死に対する治療の可能性を検討するため,NGF合成促進物質の投与による遅発性神経細胞壊死の発現の程度について見た。それによると腹腔内投与(両側内頚動脈5分間閉塞前日,当日,翌日)で,脳室内投与には劣るものの同様の形態学上の抑制効果が認められた。その適正な投与量については、引き続いて現在も検討中である。
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