研究概要 |
ネコを用いたくも膜下出血(SAH)の実験モデルにおいて、出血14日後の中大脳動脈(MCA)をH.E.染色すると、血管内腔の狭小化と血管壁の肥厚がみられた。これを画像解析装置を用いて正常ネコと比較してしてみると、この内腔狭窄と血管壁の肥厚は統計学的に有意であった。透過型電子顕微鏡では、内皮下に合成分泌型平滑筋細胞の増殖がみられ、中膜平滑筋細胞は変性していた。また、細胞外マトリックスであるコラ-ゲンの増生もみられた。以上の所見は、増殖型血管症(PA)を裏付けるものである。さらに、SAH作成24時間後に、TPAを50万I.Uを大槽内に投与してくも膜下血腫の早期溶解わ行うと、PAの発現はみられず、くも膜下血腫中の物質がPA発生のtriggerとなっていると考えられた。そこで、PAの発現に関与すると考えられる血小板由来増殖因子(PDGF)を投与してPAが発生するかを検討した。ネコ大槽内にPDGFーAA1μgを投与するPDGFーAA群,PDGFーBB1μを投与するPDGFーBB群及び生食を投与するshamーcontrol群につき検討した。H.E.染色では、PDGFーBB群で血管内腔の狭窄と血管壁の肥圧がみられ、画像解析による分析でこれらは統計学的に有意であった。透過型電顕ではPDGFーBB群で内皮下の細胞増殖と中膜平滑筋細胞の変性,細胞外マトリックスであるコラ-ゲンの増生がみられ、SAHモデルと類似した形態変化を示し、PAが発現していると考えられた。また、PDGFーAA群では中膜平滑筋細胞辺縁の不整がみられたのみで明かなPAは発生しなかった。これらの血管をPDGF抗体B鎖で染色したが、いずれの血管も陰性であり、この時にはPDGFB鎖の合成分泌は行われていないと考えられた。SAH患者髄液中のPDGF値はDay3まで高値を示すが以降は検出されないことから、早期の血管でPDGFが染色される可能性が高い。以上の結果より、髄液中より血管外膜側に作用したPDGFのPA発現への関与が示唆された。
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