研究概要 |
日本各地にはさまざまな商品作物栽培地域が島状に形成され,それぞれ高い生産性をあげている.これらの商品作物を中心とする農業地域形成の要因については,これまで多くの研究で検討されてきたが,それらは主に自然条件と社会・経済的条件,政治的・政策的条件などであると説明されてきた。しかし,これらの条件に差がみられない地域においても,商品作物栽培が盛んであるところと,そうでないところがあるという現実をみると,ある商品作物栽培を取り入れるか否かという農業者の意志決定行動を分析することが不可欠であることがわかる.このような行動論的要因を,従来から検討されてきた諸要因とともに分析し,商品作物地域形成のメカニズムを解明しようとするのが本研究の課題である. 本年度は研究の第1段階として,伝統的な地域調査の方法によって,それぞれの商品作物栽培地域の形成過程を調査した.田林は富山県黒部川扇状地におけるチュ-リップ球根栽培の推移について聞き取りを中心に調査した.第2次世界大戦直後から拡大したチュ-リップ球根栽培は,1960年代後半からの兼業化によって衰退し,現在では大規模に栽培する専業農家のみがこれを継続するようになった.高橋と村山は霞ケ浦西岸地域のレンコン栽培を調査し,1970年代後半からの米の生産調整を契機に急速に拡大したことがわかった.さらに菊地は群馬県赤城山麓赤城村と昭和村,子持山麓の子持村において新品種はるなくろの導入過程を追うことによって,コンニャク栽培地域の形成とその条件を明らかにした. これらの実態調査を通じて,商品作物の産地形成には,農業者の知識や技術,好み,価値感など個人的資質や条件が大きな意味を持っていることが明らかになり,次年度はこの点の分析を深める予定である.また,高橋は人間の行動そのものの特質およびその空間的広がりを検討することによって,本研究の課題にアプロ-チした.
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