研究概要 |
日本各地にはさまざまな商品作物栽培地域が島状に形成され,それぞれ高い生産性をあげている。このような農業地域形成の要因についてはこれまで主に自然条件や社会・経済的条件,さらには政治的条件およびこれらの条件の相互関係から説明されてきた。しかし,ある作物を取り入れ,その生産を発展させようとする農業者の意志決定行動は,当然のことながら農業者自身の属性によって左右されることが多い。これらの個人的要素を以前から検討されてきた地域全体の要素とともに分析し,商品作物栽培地域形成の条件を明らかにするのが本研究の課題である。 このため本研究では地域全体の商品作物栽培の動向を明らかにするとともに,個々の農家や農業者の動きを追った。研究対象としては,富山県黒部川扇状地の球根栽培や茨城県霞ヶ浦地域のレンコン栽培,赤城山麓のコンニャク栽培のほか,茨城県のつくば市の生協出荷の野菜栽培や協和町の小玉すいか栽培,さらに群馬県大間々扇状地の養蚕,赤城山麓の酪農と牧草栽培,福岡県筑後川流域の柿栽培などを取りあげ,検討した。また,カナダの南オンタリオとニュージーランドのオークランド大都市圏の農業経営も参考にして,研究を進めた。 結果として,商品作物栽培地域の形成には,土壌や地形や気候や水といった自然条件と市場の有無,政策,歴史的な伝統と技術の蓄積などの地域全体の要素とともに,個人的な要素としては新しい商品作物を採用する際や商品作物栽培の大きな転機になった場合,農業者が営農の意欲をもっているか,将来の展望をもっているかが重要であることがわかった。そして営農意欲は,農業者の年齢と後継者の有無,家族構成,地域組織の有無,地域のリーダーの性格,個人の農業技術の水準,そして経営現規と経営内容(他の農業経営部門の状況)によって大きく左右されることが多いことが明らかになった。
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