微小管形成中心(MTOC)と核の一定の配列は主要な細胞極性を決定している。細胞性粘菌Dictyostelium discoideumのaxenic株がこの配列に関する変異体であることを見いだしたので、これを利用して、細胞極性の制御に関与している遺伝子座を分析してきた。その結果、(1)集合期に核の後方にMTOCが位置するPosterior型は、調べたすべての野生株に共通した性質である、(2)核の前方にMTOCが存在するAnterior型は、液体培地で増殖できるように変異したaxenic株の表現型である、(3)二つのaxenic IocusのうちのaxeCが存在するaxenic連鎖群IIがAnterior型の発現と相関していたが、axeBを含むIIIは無関係である、ことなどを明らかにしてきた。本年度は以下の研究実績を得た。 (1) axenic連鎖群IIに存在するaxeC以外のIocus、oaaA(ω-アミノカルボン酸に対する発生感受性)およびdaxA(野生株では集合期に合成されるディスコイディンIが集合期に作られる)は、Anterior型の発現と相関していなかった。すなわち、Anterior型の発現を抑える条件がoaaAの表現型には変化を及ぼさなかった。増殖期Ax2株はディスコイディンIをごく微量しか含んでいなかった。 (2) したがってAnterior型はaxeCのpleiotropic効果によって発現されているらしい。しかし未知の遺伝子の関与も否定できない。 (3) すでに得られている結果を合わせると、野生株はMTOCを核の前か後ろに位置させる基本的な機構を持っているが、axenic株では連鎖群IIに存在する遺伝子(群)がAnterior型が発現を促進するか、逆にPosterior型の発現を抑制するように変位していると予測された。 (4) 微小管関連蛋白質をPAGEで比較・分析すると、NaCl処理で遊離する116およびMgATP存在下で遊離する170〜190KD成分がAnterior型株に顕著であった。
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