農山村過疎地域住民の転出・帰還行動の分析結果より、それがライフサイクルステージの変化を伴って現れ、また過去から将来にわたっての効用の動的評価のもとに、居住地・従業地一括選択行動として行われることを明らかにすることができた。また、転出・帰還の意思決定プロセスにおいて、農山村部と都市部の間の生活環境、就業環境の相対的な関係および通勤条件等の要因が大きな影響力を持っていることを示した。 以上の現況分析を踏まえて、農山村部と都市部との間での人口流出・帰還現象を説明する集計型の居住地・従業地一括選択行動モデルを構築し、十分な説明力を有していることを立証した。また同様に、農山村部と都市部との間での個々人の転出・帰還行動を非集計型のネスティッドロジットモデルで表現し、その動的な移動現象を説明し得る有意な関係式を構築することができた。 得られたモデル式より、種々の定住施策の評価を行ったが、とくに農山村・都市間の通勤条件・交通条件の整備効果分析では、幹線道路の整備が定住化に極めて大きな貢献をすることが示された。また非集計型のモデルを用いた分析では、過疎地域住民の移動は家族の形に大きく規定されたものとなっており、今後の人口移動現象を予測し、あるいはまたその定住施策を検討していく上で、家族の形(ライフサイクルステージ)を十分に考慮する必要があることが明らかとなった。 最後に、過疎地域における過去の社会基盤整備の実績に基づき、それに対する定住施策としての総合的な評価を行うとともに、今後の重点的な定住政策課題および望ましい定住施策の全体像を示した。
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