感染性寄生原虫のプロスタグランジン(PG)産生系を分子生物学的に同定するために、研究対象を熱帯熱マラリアから大量の試料の供給が可能なTrypanosoma属の原虫に変更して研究を行った。その結果、遺伝子組換え型のT. brucei PGF_<2Eφ>合成酵素の結晶化に成功し、SPring8放射光を用いたX線回折分析により、2.5Å分解能の三次元構造座標を決定した。さらに、部位特異的変異法を用いて、本酵素の活性中心であるリジン残基を同定した。そして、Leishmania majorに存在するT. bruceiPGF_<2Eφ>合成酵素ホモログのcDNAクローニングと遺伝子組換え型酵素の発現と精製を行ない、本酵素が、旧世界リーシュマニア(L. major、L. donovani、L. tropica)には存在するが新世界リーシュマニア(L. mexicanaやL. amazonensis)には存在しないことを見出した。さらに、T. cruziのPGF_<2Eφ>合成酵素の精製とcDNAクローニングおよび遺伝子組換え型酵素の精製を行い、T. cruziPGF_<2Eφ>合成酵素はOld yellow protein遺伝子ファミリーに属するフラビン酵素であり、PGH_2以外の様々な化合物を基質とし、メナディオンやベータラパコンなどのナフトキノンをセミキノンラジカルに1電子還元してこれらの薬物の殺虫効果を誘発し、ニフルティモックスや4-ニトロキノリン-N-オキシド等の薬物を2電子還元して無毒化することを証明した。
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